2014.09.20
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。
前回のチャイニーズ・クレステッドドッグの症例報告記事では「検査結果が出揃っていない初診時に、病態(診断名)と治療方針をどこまで的確に予測できるか?」というテーマで解説してみました。
普段から「診極め」、「初診時に的確な病態把握を」と意識しているため、診断名をつけることは非常に重要だと考えています。
・・・が!
教科書的な枠組みの診断名こそがすべてか?といわれると、医療はそうではないと考えています。
おおげさかもしれないですが、生命の神秘という言葉もあるなかで人が考えた枠組みにすべて綺麗に分類される・・・なんてありえないと思います。
実際すべての病気が既存の検査法だけで診断名がつくわけではなく、「教科書に記載されている条件を満たさない症例」も数多くあります。
そのため医療は診断至上主義ではなく、未確定要素を含みながらも治療を組み立てることもとても重要だと考えています。
今回はそんな「一部未確定要素が残りつつも、いかに治療方針を初診時に組み立てるか?」というテーマで実際の治療症例を解説していきます。
【症例】
アメリカン・コッカー・スパニエル 約10歳 女の子(避妊手術済み)
【経過】
〇1~2才まではまったく皮膚トラブルなし
〇5才ごろから痒みを伴う皮膚病
〇毎年夏になるとかゆがり、冬はトラブルない
〇3年前から頚部がべたつくようになり、1年を通して皮膚病がでるようになった
〇べたつきは頚部にはじまり、今ではワキ・四肢全体に広がっている
初診時の状態をみてみましょう。
まずは頚部から。

続いて、右前肢。

同じく右前肢の肘内側の拡大。

同じく右前肢の手首内側付近の拡大。

同じく右前肢の甲の部分です。

続いて、右後肢の内股の状態です。

今回は右側のみを掲載していますが、すべて左右対称に病変が存在します。
何をかんがえるか?
まずはカルテの情報では約10才、コッカー・・・
コッカーといえば脂漏が起きやすい犬種で、非常に難治性になりやすい体質を持っていると評価できます。
続いて年齢は約10才ということで高齢期の入り口ですが、初発は5歳のため高齢期の発症とは言えません。
次に考えるのは5歳のときの皮膚病と今の皮膚病が同じかどうかを考えるのですが、おそらく違うのではないかと考えました。
そう考える理由は2つ、1つ目は当初明確な季節性があったにもかかわらずこの3年は明らかな通年性で1度もよくなったことがないと飼主さまがおっしゃっていたためです。
もう一つは病変部、高齢期にかけて明らかな拡大・悪化が認められているためです。
5歳からの季節性の痒みであればアトピーなどを疑いますが、中高齢期での悪化は内分泌疾患を疑うべきです。
続いて痒みのある部位ですが、耳、口唇、頚部、四肢を中心に痒みが認められました。
この「季節性」、「耳・口唇・頚部・四肢」という条件でもやはりアトピーを含めたアレルギー疾患を疑います。
また、写真は掲載していませんが、背中には多量のフケを認めました。
以上のカルテ情報、飼い主さまからのお話、病変部から
〇最初の発症はアトピーの疑い
〇中高齢期での悪化は内分泌疾患の併発を疑う
と考えました。
必要な検査は
一般皮膚検査
細菌培養・感受性検査
一般血液検査
内分泌血液検査
超音波画像検査
尿検査
です。
ここで内分泌疾患について、具体的に何を考えるべきか?
一般的には甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症です。
実はもう一つ考えてもいいものがあるのですが、そこはあえて伏せておきます。
上記の2つの内分泌疾患のうち、甲状腺機能低下症は初診時に血液検査(場合によって超音波画像検査追加)で判定できます。
では副腎皮質機能亢進症は初診時に行うか?というと、現状では最優先で行うほど典型例ではないため、腹部超音波画像検査と尿検査を先に行うことにしました。
副腎皮質機能亢進症の血液検査は時間がかかること、コストも高め、判定も難しいため、「疑いが高い場合にのみ実施する」とした方がいいため、回り道のように感じることもありますが、腹部超音波と尿検査を優先します。
ではこの2つの検査で何かわかるか?
超音波画像検査では副腎サイズ、形がわかります。
副腎皮質機能亢進症ではサイズが大きく、中には形が変わっていることもあります。
また尿検査では「副腎皮質機能亢進症の可能性はない」という結果がでることもあるため、無駄な検査を初期に除外することも可能です。
参考までにこのコッカーの副腎サイズは約8mm、尿検査で尿コルチゾール・尿クレアチニン比は7.8と副腎皮質機能亢進症の疑いが高い・・・・という判定でした。
ではこの時点で続いてACTH試験、判定がグレーであればさらに追加でLDDS試験を行うべきか・・・?
行ってもいいと思うのですが、そこまでしなければ治療方針が一切立てられないか?、副腎疾患の有無の前に改善させることができる治療方針がないのか?・・・そんなことありません。
これらの検査結果が出揃う前から、むしろ初診時でも治療方針は立てることが可能です。
何も検査結果がでていなくてもほぼストーリーは描くことが可能です。
そして内分泌疾患の判定がすべて終わる前であっても改善は十分可能です。
それでは治療開始から3週間後、
それは次回に♪
投稿者:
2014.09.19
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。
先日知り合いの先生から「掲載されている症例報告の詳細について・・・特に診断名を!」と聞かれたので、過去に紹介した症例を用いて皮膚科診療におけるアプローチについて書いてみます。
今回解説する症例は、随分前に紹介したチャイニーズ・クレステッドドッグの皮膚病です。
治療前、治療後は前の記事を参考にしていただきたいのですが、今回は初診時にどこまで診極めることができるか?をメインに解説していきます。
まずは来院時のカルテ情報として、1歳8ヶ月、女の子(未避妊)のチャイクレです。
これが10歳こえてはじめて皮膚疾患になったトイプードルであれば内分泌疾患を疑いますし、2歳の柴犬ならアレルギーを疑うのですが、今回は「若いチャイクレ」という条件でそう多くないパターンですから、犬種として・・・と考えるにはまだ十分な情報とはいえません。
さて、メインの症状は痒み、背中以外ほぼ痒みがあります。
主に手首、お腹、目、口、鼻、耳です。
初診時の状態を病変ごとにみてみましょう。




目、鼻横、口唇に左右対称性の皮膚炎が認められます。
まず疑うべきはアレルギー性疾患、年齢や統計学的にはアトピー性皮膚炎>食物アレルギーと考えました。
続いて、前肢をみてみましょう。
右前肢全体、

腕全体的にかむ症状が認められますが、もっとも診た目で重症なのが手根(手首)のやや内側部分です。

続いて、左前肢をみてみましょう。

同じく左前肢の肘のあたりです。

アレルギー性皮膚炎の症状の一つに四肢の関節の痒みがあるため、これもアレルギーを疑う所見・・・なのですが、
しかし、ここでワンポイント!
この病変で「顔がアレルギー疑いなので、ここもアレルギーか?」と考えてしまうのはこの後うまくいかない原因になります。
たしかに左前肢の肘付近の痒みは顔と同じく「アレルギーを疑う」でいいと思うのですが、右前肢の手首の病変部で違和感を感じました。
もちろんアレルギーで手首の痒みが認められることもあるのですが、潰瘍化するほどの痒みは通常認められません。
しかも左前肢の手首には認められない・・・・・・・
ここで候補にあがるのは「心因性」です。
飼主さまからの話や、診察室での行動で心因性を疑うことはなかったのですが、診た目の特徴で心因性を候補にあげました。
続いて、腹部です。


腹部もアレルギー性皮膚炎が認められる部位のためアレルギーも考えなければいけないのは事実ですが、その前にこの病変であれば「細菌性皮膚炎(膿皮症)」を考えます。
アレレギーは関係していない・・・とはいえませんが、他の病変部との絡みで「アレルギーの関連した・・・」なんて考えてしまうと躓く原因になってしまうため、まずは細菌性皮膚炎として治療方針を組み立てます。
実施した検査は
〇一般皮膚検査・・・ニキビダニ陰性、カイセン陰性、ブドウ球菌+、マラセチア+
〇一般血液検査・・・異常なし
この2点は当日検査結果がでました。
〇甲状腺検査・・・正常値
〇特異的IgE検査・・・環境アレルゲンに対するIgE上昇あり
〇細菌培養&感受性検査・・・一部抗生物質に耐性あり
この3点は検査センターに依頼したため、後日検査結果がでました。
当日に飼主さまにお伝えしたことは、
〇顔、四肢の痒みはアレルギー性皮膚炎を疑う。その中でもとくにアトピー>食物アレルギー
〇右の手首の約1センチの病変部だけはアレルギーではなく、心因性を疑う
〇腹部は細菌性皮膚炎
以上のことから、もし想定の範囲内であれば・・・ですが、まずは抗生物質で腹部の湿疹を治療します。しかし効果のある抗生物質を服用すべきですので、感受性検査の結果をみて投薬開始としましょう。ただし抗生物質では腹部の湿疹とそれに関する痒みの改善はありますが、その他特に顔や四肢の病変部は細菌感染ではないため、全体的な痒みの改善は期待できません。腹部の湿疹が治り次第ステロイドを併用することで全体的な痒みの改善が認められるでしょう。そして最後に残るのが右の手首、ここだけは細菌感染でもアレルギーでもないので、初期の治療にはまったく反応せず最後まで残ります。残ったことを確認して心因性に対するアプローチを併用していきしましょう。心因性に対する内服治療もいくつか選択できるので、1種類で改善なくても2種類目、3種類目・・・と変えていきます。
・・・と思いますが、まだ検査結果が出揃っていないため、あくまで最初の予測です。
とお伝えしました。
そして検査結果が出揃い、診断は犬アトピー性皮膚炎、耐性菌による細菌性皮膚炎と診断しました。
右手首の心因性疑いですが、これは検査がないため治療結果で考えていきます。
治療は初診時の予定通り、スタートは抗生物質&抗ヒスタミン剤の内服、外用療法を開始しました。
2週間で腹部の湿疹が消失したため、3週目からステロイドの内服を開始。
治療開始から約5週間後、やはり手首のみまったく改善が認められないため心因性に対する内服治療を開始。
心因性に対する治療では1種類目で改善が認められず、むしろ悪化が疑われたため2種類目に切り替えました。
右手首は1種類目ではまったく改善しませんでしたが、2種類目に切り替えたところわずか1週間で潰瘍がなくなり、被毛が再生しました。
以上の治療経過から右手首はやはり「心因性」と判定できると考えました。
実際はステロイドの使用量を工夫したり、ステロイドにより湿疹がわずかに再発したため休薬期間を設けたり・・・すこしずつ変化をくわえています。
そこは状況に応じて、まさに診極めとテクニックかな?と思います。
今回は「診断名をしっかりつけて治療に望む」でしたが、医療は診断名がすべてではありません。
診断まで複数のステップを踏み、時間がかかる場合は診断名をつけるまえに治療開始しなければいけないこともありますし、典型的な検査結果がそろわず教科書的な枠組みに当てはまらないこともめずらしくありません。
そういった場合でも治療結果をだすのも医療ですから、「診断名が一部不確定」で治療方針を組み立てる力も重要です。
次回は「一部診断名不確定」でも治療方針は立てて、結果も出す!というテーマで紹介します。
※一部わかりにくい部分があるかもしれないため、後日見直しながら書き直します。
投稿者:
2014.09.13
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。
今年の上半期は移転準備を理由に症例報告に手をつけていなかったのですが、最近気持ちを切り替えて取り組むようになり、少しばかり自分にスイッチが入ったような気がします。
何でも治せます!なんていえませんが、美しくアグレッシブに攻める診療をお魅せできればと思います。
今回もチワワですが、前回の症例報告でチワワにはいくつかパターンがあるというお話しをしました。
「脱毛」、「アレルギー」、そして「脂漏」です。
脂漏にも大きく2パターンあるのですが、そのうちの1つを紹介します。
【症例】
チワワ 7歳 男の子
【経過】
〇3年前から皮膚病、1年通して発症している。
〇季節性があり夏が最も悪い
〇過去に抗生物質、シャンプーを処方されたが改善なし
初診時の状態をみてみましょう。

まずは頚部から。

同じく頚部の拡大です。

続いて、頚部のやや下の全胸部~前肢です。

続いて右前腕とその拡大。


続いて、左前腕とその拡大です。


続いて、腹部。

続いて、右内股と膝部分の拡大です。


この初診時から6週間後の状態と比較しています(治療は5週間です)。
それぞれ画像をクリックすると拡大してみることができます。
まずは頚部と、その拡大です。
続いて、前胸部~前肢。
続いて、右前肢とその拡大。

続いて、左前肢。
初診時と角度が若干かわっていますが、内股です。
※後肢の拡大がありませんが、治療後の撮影を忘れてしまいました。しかし同様に改善しています。
スキンケアのため部分的に被毛をカットしているため短くなっていますが、皮膚のコンディションが正常に戻っているのがわかると思います。
このタイプは初診時に治療の方向性を明確にすることが可能であり、この最速の治療結果にはスキンケアが最も重要です。
投稿者:
2014.09.12
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。
陽のあたる日中はまだ暑さを感じるものの、夜は冷えるようになってきましたね。
さて、今日はチワワの症例報告です。
難治性皮膚疾患になりやすい犬種といえば・・・柴犬、フレンチ、シーズー・・・と、実はチワワが上位に入るわけではありませんが、その圧倒的な飼育頭数から難治性で来院するチワワも稀ではありません。
そしてチワワであればいくつかパターンがあり、大きく「脱毛症」、「アレルギー」、「脂漏症」の3つに分かれる傾向にあります。
病気が1つとは限らず複数もつこともあり、それがまた診断と治療を難しくさせる要因なのかもしれませんが、初診時にその病態を適切に判断することが最も重要です。
【症例】
チワワ 2歳10ヶ月 男の子(去勢済み)
【経過】
☆1才から痒みを伴う皮膚病
☆冬に悪化しやすい?再発を繰り替えす
それでは初診時の状態です。

病変は顔、耳、四肢端です。
まずは顔を左右でみてみましょう。


続いて、下顎です。

続いて、頚部とその拡大です。


続いて、前肢端です。

同じく前肢、右前肢の拡大です。

最後に後肢です。

よくあるチワワの典型皮膚疾患ではありませんが、診ただけでもチワワらしい体質が予測できます。
この初診時から1ヶ月半後と比較していきましょう。
わずか1ヶ月半で完治?と見間違うほどの改善です。
重要なのは初診時にどう病態を判断するか、お医者様の「みたて(見立て)」と一緒です。
たとえ初診時に血液検査結果が出揃っていなくても、2ヵ月後にどこまでよくなっているか・・・いくつかパターンをあげつつも予測できるか?が重要です。
今回に限らず毎回ですが、各種検査結果が出揃って改めて考え直すことはほとんどなく、検査結果でパターンの整理をするだけで何か特別な病気の可能性や治療パターンを用意することはありません。
そのためほぼ初回の「みたて」通りにアプローチします。
今回の症例に関して、たしかに診た目は重度ですが、たった1つの特徴的な病変が顕著にでているだけだったため、僕が頭で描いたゴールへの道筋は1つです。
逆に頭で描いたたった1つの治療パターンで改善がなければ・・・????
なくはないのですが、今回は「これで改善しないはずがない」という判断ができるほど自信をもってスタートをきることができた症例です。
現在初診から半年経過しましたが、現在でも比較的いい状態を維持できています。
もし何も治療を加えなければ徐々に悪化してしまう可能性がある疾患のため、現在でも治療継続中ですが現在では1ヶ月に1回の診察でコントロールできています。
「初診からの集中治療期間1ヵ月半」、「その後の来院頻度月1回」という内容はかなり軽い症例の方で、全体の中では非常に少ないパターンです。
すべての症例で可能なわけではありません。
投稿者:
2014.08.25
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。
崩れやすい天候が続いていますが、ようやく暑さのピークを越えたような気がしますね。
さて、最近は診療に関することをまったく書いていなかったので、簡単な報告をしようと思います。
症例はシーズーです。


来院時、ツルツルの皮膚でしたが、綺麗な被毛が再生しています。
現在も継続治療中なので、もっともっと改善すると思います。
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投稿者:
2014.03.02
こんにちは、院長の平川です。
今日の皮膚科症例報告は、少し珍しいタイプの皮膚病です。
【症例】
チャイニーズ・クレステッドドッグ 1歳8カ月
【過去の病歴】
〇生後1歳の冬から腰のあたりに痒みを伴う皮膚病
〇春過ぎから手首を舐める、目・口・鼻の赤み・痒み
〇徐々に悪化、全身に拡大し現在が最も悪い状態
〇近医にて治療継続しているが、症状の改善が認められない
では、初診時の状態を見てみましょう。
まずは顔の正面です。

続いて、顔の左側から。

同じく左眼。

同じく、左の口唇の拡大です。

続いて、右前肢。

同じく右前肢の手首の拡大です。

続いて、左前肢です。

同じく左前肢の前腕~肘に近い部分の拡大です。

この部位は舐めすぎていることで、被毛ほぼなくなっています。
続いて、腹部。

同じく、腹部~右内股の拡大です。

掲載はしていませんが、右の鼻・口唇も同様に赤み・痒みがあります。
また両耳、肛門周囲の赤み・痒みもあります。
上記の病変部に共通するのは、全て「痒い」ということです。
ですが、この上記の写真の中で1つだけ違う病気が含まれています。
ほぼ左右対称に見えて・・・たった1カ所だけ痒みの原因が異なるものが含まれています。
この違いを初診時に診極めなければ迷走の原因になります。
では、3カ月半後の状態と比較してみましょう。
ほぼ綺麗に改善しました。
初診時に問診をとり、簡単な顕微鏡検査のあと、
・おそらくアレルギー性皮膚炎(アトピー&食物の可能性)が基礎疾患にある
・また部分的に感染症が認められる
・左右対称に見えますが、1か所だけ原因が異なるものがあるため、そこの治療だけは最初から行わず最後に加えましょう
と伝えました。
服用する薬を1回変更するなどの工夫はありましたが、ほぼスムーズに改善したと思います。
全身性の皮膚疾患を診るときに「分かり易い原因で全てを判断しない」ことが重要ですね。
投稿者:
2014.02.18
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック獣医師平川です。
柴犬の難治性皮膚疾患(当院受診前に治療歴があり改善しなかった症例)をまとめるために、さまざまなタイプの症例を紹介しています。
今回紹介する症例は今までの治療症例とは少し異質なものですが、「これだけ重症の皮膚病でも治る余地がある」と思っていただきたくて紹介します。
【症例】
柴犬 7歳 女の子(避妊手術済)
【過去の病歴】
〇4年前から通年性(1年中)の皮膚病
〇現在が最も悪い状態
〇最初の2年は近医(A動物病院)にてステロイドを使用しながら痒みを抑えていた
〇2年前に漢方療法を行う皮膚科動物病院(B動物病院)へ転院し、抗生物質・甲状腺モルモン剤・漢方薬など2年間服用
〇偽妊娠になりやすいことから、同じB動物病院で避妊手術(卵巣摘出)を受ける
〇B動物病院で漢方成分の入ったシャンプー(商品名なし)を使用
それでは初診時の状態をみてみましょう。
まずは、顔の左側から。

同じく目の下、頬の拡大です。

同じく左側、口唇~頚部にかけての拡大です。

続いて、頚部左側です。

続いて、頚部~左前肢肩付近です。

続いて、頚部。

同じく頚部の拡大です。

続いて、頚部~前胸部です、

続いて、右前肢内側、拡大をあわせています。

続いて、身体右側、ワキ~胸部側面です。

続いて、腹側全体です。

同じく、腹側の胸部拡大です。

続いて、右後肢の足首~甲の拡大です。

最後に尾側、会陰部周囲です。

この初診時から2カ月半後の状態と比較してみましょう。
初診時は過去に例がないほど重度の皮膚の肥厚、脂漏が認められました。
そしていつも通り初診時に数パターンの診断・治療方針を想定しましたが、最優先で疑ったのは「アトピー+ホルモン異常」でした。
ただ、でてきた検査結果は「アトピーはない、甲状腺も異常なし、クッシングの可能性も低い」という想定と異なるもので若干違和感を感じましたが、スキンケア療法に非常にいい反応がありました。
通常柴犬の皮膚病に院内で行うスキンケアを行うことはありませんが、今回の症例は初診時に「原因のいかんに関わらずスキンケアを併用しなければ改善はないだろう。むしろ原因のいかんに関わらずスキンケアでかなり改善させることができる。」と判断したため、改善に関しては当然の結果だと考えています。
ただ想定と異なる検査結果に感じた違和感が本当なのかを確認するために、いくつか詳しい検査を追加で受けていただいた結果、確信に近い検査結果を得ることができました。
しかし今回当院が下した診断は本来起こるべきではないことを前提にした診断名であるため、当院での診断をより確実に確定するために大学病院を受診することになっています。
今回の症例は治療を行いながら複雑な心境でした。
考えられる原因が原因なだけに、なぜこの子がこんなつらい思いをしなければいけないのか、と診察のたびに胸が痛みました。
そして「獣医師として代わりに責任持って診断・治療する」と思いました。
もちろん当院を受診される全ての診察に全力を!という想いを込めていますが、この子のスキンケア時には全スタッフがいつも以上に想いをこめていたと思います。
投稿者:
2014.02.18
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック獣医師平川です。
柴犬の皮膚病と一言にいっても、その診断名・治療方針はさまざまです。
今回は皮膚科疾患の中ではそう多くありませんが、外科手術を行い改善させた症例を紹介します。
【症例】
柴犬 9歳 男の子
【病歴】
〇1歳未満から発症、顔周囲から全身へ拡大
〇夏が最も悪くなり、冬には改善していた
〇当院受診前の冬は改善なく、悪い状態のまま
〇過去に4つの動物病院を受診したが、改善なく当院受診
初診時の状態を見てみましょう。
まずは全体、常にエリザベスカラーを装着していました。

続いて、顔の正面、左右からです。



続いて、背側全体と頚部、胸背部、腰背部の拡大です。




続いて、右からの側面です。

続いて、胸部全体と左脇の拡大です。


続いて、右前肢外側から。

最後に右後肢外側から。

それでは約3ヶ月後の状態と比較してみましょう。
非常に長期に渡り重度の皮膚病があったことと、この疾患特有の毛根への強いダメージがあったため、一部(目・肢端)に再生が不十分なところもありますが、エリザベスカラーも完全にはずすことができ、90%以上の部位で柴犬らしい綺麗な毛並みが再生しています。
一見、柴犬に多く認められる典型的な犬アトピー性皮膚炎の重症化のようにみえます。ただ純粋な犬アトピー性皮膚炎だけではこのような状態にはなりにくいため、何か別の基礎疾患があると考えました。
実際にこの基礎疾患に外科的アプローチをしたのは初診時から6週間後ですが、そこから格段に治療成績が向上していったことを考慮するとやはり外科手術がターニングポイントになったと思われます。
投稿者:
2014.02.17
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック獣医師平川です。
今日の柴犬の皮膚科症例です。
【症例】
柴犬 2歳 女の子
【病歴】
〇生後6カ月の頃から前肢の外側をよく噛むようになり、被毛が薄くなっていった。
〇近医にて抗生物質と痒み止め(ステロイド)を処方され、あまり効いていないように見えたが痒みがあったため約1年間継続して服用
〇1年経過し、セカンドオピニオンで2件目の動物病院を受診したところ、肝臓数値が高くなっていたためステロイドを中止
〇痒みが強く、アレルギー検査・外用ステロイドスプレー、療法食、手作り食を試すも改善なく悪化
それでは初診時の状態を見てみましょう。
まずは全体から。

続いて、顔。



わかりにくいかもしれませんが、毛穴を中心とした脱毛、毛穴~鼻上にかけて皮膚炎がみとめられます。
続いて、左前肢の外側から。

ここもわかりにくかもしれませんが、被毛が薄く、短くなり、地肌が見えています。
続いて、右前肢。

これはちょっとわかりやすいと思いますが、左前肢と同じく被毛が短くなっています。
わかりやすいように黄色の線で噛んでいるところを示してみます。

続いて、左後肢です。

これも柴犬の被毛を見慣れていないと、病変としてみえないかもしれませんが、膝の周囲を噛んで被毛が短くなっています。
脱毛しているわけではありません。
黄色い線で噛んでいる範囲を示してみます。

上の写真と見比べてみるとわかるかと思います。
続いて、右後肢です。

ここも左後肢と同じく脱毛ではなく、噛んで被毛が短くなっています。
黄色の線で囲ってみます。

今回の症例は初診時におそらく「〇〇〇による皮膚病」と仮診断し、初診時の診断に沿って治療を行いましたが、中々いい治療結果には結び付きませんでした。
通常であれば1~3ヶ月後にはほぼ綺麗になっているのですが、今回は5カ月を超えた時点でも悪化が認められました。


自分自身の中でも「自分の治療の限界なのか?」と悩みましたが、色々な治療法をさせていただく機会をいただくことができましたので、色々な攻め方をして、最終的にこの悪化後に変更した治療内容でいい結果を出すことができました。
上記の悪化したときから2カ月半後の状態と比べて見てみましょう。
痒がらないわけではありませんが、傷をつけるようなこともなく、被毛も綺麗に再生してきました。
この時点で初診時から8カ月経過していました。
正直、自分自身の未熟さを認め、大学病院を紹介するべきか・・・と悩みましたが、結果がついてきていない中でも新しい治療の選択肢を受け入れてくださった飼主さまの対応に本当に感謝しています。
「ここでは治らない」と判定されていてもおかしくない状況でしたので、最も頑張ってくださった飼主さまのおかげという以外ありません。
ただ診断名としては最後まで変更なく、今でもその診断として間違っていないと思っています。
それでも後半の2カ月半の治療の選択肢をもっと早くに提示することがでいなかった自分の非力・未熟なところは反省すべきで、今後に生かしていきたいと思います。
今回の症例を8カ月間治療させていただけたことで、、「柴犬の皮膚病を診る」という点においても新しい世界へ入ったような気がしました。
何度もお話しておきますが、チャンスを与えてくださった飼主さまに感謝しております。
当院の皮膚科専門外来を受診された飼主さまには、初診時にそのわんちゃんの皮膚病と同じように見える治療症例の写真を複数お見せするようにしています。
年間を通すと柴犬だけで何十頭と初診を診させて頂き、そのほぼすべてを画像データで残していますので、この数年は例外なく「うちの子とそっくり・・・」と思える症例を、しかも複数例お見せできています。
ここで症例報告をご覧になっている柴犬の飼主さまもきっと「うちの子と一緒」と思っている治療症例がいるのではないでしょうか。
そしてここの多くの治療症例をみながら「ほとんど同じに見える」、「柴犬には柴犬特有の同じ病気になりやすいのではないか?」、または「柴犬の皮膚病に特別効果のある薬があるのではないか?」と思う方もいるのではないでしょうか?
しかし答えは違います。
今回の症例を含め最近の6症例だけをピックアップしても、診断名と治療内容が一緒の症例は2症例のみです。他の4症例はそれぞれ異なる診断と治療を行っています。
このあとさらに2~3症例は紹介しようと考えていますが、それぞれ診断名・治療内容が少しずつ異なります。
柴犬を診るのが非常に難しい理由が少しずつ伝わってきているでしょうか?
また最後にまとめさせていただきます。
投稿者:
2014.02.16
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック獣医師平川です。
3年ほど前から『皮膚を丁寧に診る』だけではなく『犬種別に診る』皮膚科診療を意識するようになりました。
まずその犬種の体質をよく知ること、個人的に最重要犬種として挙げたのがシーズー・フレンチブルドッグ、そして柴犬です。
シーズーは当院のメディカルスキンケアで3~4年前からほぼ治療法を確立することができ、フレンチブルドッグもその延長のスキンケアで多くを改善できるようになりました。
そして最後に、何か掴みかけた感触程度ですがこの1年で柴犬を診れるようになった気がしています。
そこで柴犬の皮膚病をまとめようと連続で症例報告を作成しています。
【症例】
柴犬 10歳 男の子
【病歴】
〇約5年前から強い痒みを伴う皮膚病
〇1件目動物病院はステロイドを使わない方針で当初インターフェロン、食事療法、免疫抑制剤(2年間)、抗真菌剤を使用するが改善せず、最終的にステロイドを試すも内服をやめるとすぐに強い痒みが再発する
〇2件目動物病院ではアレルギー検査とホルモン検査を受け、ステロイドと精神安定を期待したサプリメント
時に抗生物質、抗ヒスタミン剤、甲状腺ホルモン剤、外用薬なども使用するが改善なし
〇最終的にエリザベスカラーを常時装着しなければいけない状態まで悪化
初診時の状態をみてみましょう。
まずは顔の左側から。

続いて、下顎~頚部。

続いて、身体の右側から。

胸部、右側から。

続いて、右前肢の肩~上腕。

同じく右前肢の手根~肢端。

続いて、頚部~前胸部。

続いて、腹部全体。

それでは3カ月半後の状態と比較してみましょう。
短期間で非常に綺麗に改善することができました。
エリザベスカラーも外し、わんちゃんらしい日常生活を送ることもできるようになりました。
強い痒みから解放されたのか、思い返せばイライラしていたのもなくなり、穏やかになったと喜んでいただけました。
さて、過去の治療と何が違うのか?
診断名、治療内容については来院された方にのみお話していますので、ここでは詳しく解説できませんが、皮膚病で困っている柴犬の飼主さまは気になると思いますので、それぞれのお薬について少し説明をしておきたいと思います。
①インターフェロン
これは犬アトピー性皮膚炎の治療の選択肢ですので、アトピーと診断して使用したのだと思います。アトピー治療としての改善率も極端に高いわけではないのでインターフェロン単独での治療は中々難しいのが現状です。そのためインターフェロンで改善がないからインターフェロンが効かなかったと判定することはできず、治療の優先順位を間違えたがゆえに効果あるべきものも効果を示せなかったということも考えられます。決して効果を期待できないないわけではないので、個人的には多剤との併用などは十分に生かせるのではないかと考えています。
②免疫抑制剤
動物用免疫抑制剤は同じく犬アトピー性皮膚炎に非常に効果があり、症状の改善に役に立つと思います。ネックは非常に高額な医療費がかかることでしょうか。このお薬を2年間毎日服用させ続けた飼主さまの努力にはまさに血のにじむ想いだったと思われます。
③抗ヒスタミン剤
同じく犬アトピー性皮膚炎に使用します。単独での使用では痒みを抑える作用が弱いため、個人的には予防的な抗アレルギー剤と考え、ステロイドやインターフェロンとよく併用するようにしています。
④抗生物質
皮膚炎の原因に細菌が関与していることが多いため、皮膚科診療では非常に重要で、当院でもよく使用します。
⑤甲状腺ホルモン剤
甲状腺機能低下症が皮膚機能低下を引き起こし、難治性皮膚疾患の原因となるため甲状腺機能低下症の症例には生涯投与が必要になります。当院でもよく診断する疾患の一つです。
⑥抗真菌剤
マラセチア性皮膚炎や糸状菌が関与した真菌性皮膚疾患に使用します。当院でもよく使用する薬剤の一つです。
⑦サプリメント
今回は抗不安効果のあるサプリメントですが、当院でも心因性の痒みに対してよく使用します。
⑧ステロイド
ステロイドは極力使わない、脱ステロイドという言葉がありますが、個人的にはステロイドは「使うべき」か「使ってはいけない」のどちらかで極力使わないや脱ステロイドという考え方ではステロイドを必要とする皮膚疾患を治すことは難しいと考えています。
⑨食事療法
これも非常に重要ですね。当院でも食事療法だけで治るとはいいませんが、治療成績が向上するのでおすすめしています。
皮膚科診療で登場する大半の治療法が登場したと思います。
おそらく2件の動物病院では柴犬に多いアレルギー性皮膚炎(特に犬アトピー性皮膚炎)を疑って治療したと思われます。
参考までに当院で使用した薬は最大で4種類、改善を確認しながら少しずつ減らしていきました。
この治療の選択の違い「診極める」で、病態を的確に把握し、適切な診断名と治療法を選択すれば極めて稀な疾患を除き、特別な魔法の薬などなく治すことができると考えています。
最も陥り易いミスは「豊かな経験に基づいた先入観」です。
確かに豊かな経験は診療における重要な武器の一つですが、先入観は紙一重で引き返せない迷走に入ることすらあります。
僕もどうしても一瞬の診た目である程度絞り込んでしまいます。
診極めの中に豊かな経験は非常に重要だと思いますが、同時に先入観を捨て常に「もう一人の獣医師」を自分の中に作り出し、自分を疑うことを忘れないことも重要かと思います。
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