2019.11.23
こんにちは、四季の森どうぶつクリニックです。
今回は治療依頼が非常に多いトイプードルの脱毛症「アロペシアX」、別名「毛周期停止」の治療症例です。
【症例】
トイプードル 7歳 女の子(避妊手術済)
【経過】
〇元々薄毛ぎみだった
〇約1年前に頚部が脱毛、そこから広がっていった
〇エリザベスカラーを着用している
それでは、初診時の状態です。
まずは、体の正面です。
右耳です。
頚部です。
脇~腹部です。
内股です。
体の右側面と頚部の拡大です。
それでは、初診時から約8ヶ月後の状態と比較してみましょう。
※写真をクリックすると大きくすることができます。
トイプードルの毛並み異常は非常に多く、難治性皮膚病の原因になっています。
難しい理由は、
①評価ができない
毛並みは数値ができないため、毛並みが悪いという状態をしっかり評価できていないケースが多く認められます。
顕著に脱毛していればまだ「脱毛」とわかるのでいいのですが、なんとなく悪いだけであれば気づかれにくく放置されてしまうこともあります。
そういった症例で湿疹やアトピーが混在していると、毛並み異常の病気が隠されてしまい「アトピーだから」「皮膚病だから」で済まされてしまうこともよく起きています。
何事もそうですが、「正常を知る」というのがとても重要で、正常を知っていることで「おかしい(異常)」を的確に評価することができます。。
②診断が難しい
診療の基本は証拠(わかりやすいのは数値化)を得て診断名(病気の枠組み)をつけることなのですが、脱毛・毛並み異常の原因が必ずしも数値化できる病気ばかりではありませんし、既存の診断名の中に綺麗に収まる病気ばかりではありません。
数値化で診断しやすい疾患(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症)もあるのですが、そうではないものを把握しておく必要があります。
もちろん診断がない毛並み異常に対しても治療プランをもっているとより医療の質は高くなります。
③治療が難しい
よくある病気に当てはまらないと治療プランを立てることがむずかしくなります。
というのも診断名があり特定の治療法がある疾患であれば悩むことはないのですが、原因が特定されておらず漠然とした疾患で、治療法にもさまざまな選択肢があると「よりベターは選択は?」となるため、高度な判断力が必要となります。
④トイプードルならではも難しさ
トイプードルの脱毛症は他の犬種とことなる特徴があるため、その特徴を知っていないと意外なところで躓きます。
トイプードルの脱毛症、特にこのアロペシアX(毛周期停止)はこういった条件がそろっているため、治療は難しくなっています。
今回はその中でかなりいい治療結果が出た方だと思います。
本当に難しいのはこの治療結果がでるのかでないのか、事前に予測するのが非常に難しいところですね。
投稿者:
2018.06.05
トイプードルに多くみられるアロペシアX(毛周期停止)、アトピー・アレルギー、癖やストレスなど精神的な要因を含ん心因性の痒い皮膚病治療に力をいれている皮膚科専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
トイプードルは皮膚病が多いわけではないと思うのですが、トイプードルがゆえの遺伝的体質から難治性の皮膚病になってしまうことがあります。
「難治性」と一言にいっても色々とあるのですが、本当の意味で治りが悪いことはほとんどありません。
多くは典型的な体質のため、1つずつ的確なアプローチをしていくと非常に綺麗に改善します。
「よくならない」ということで当院を受診する飼主さまから過去の治療歴を伺うと、このアプローチで躓く「陥りやすいポイント」が見えてきます。
〇アポキル
アポキルを使って痒みが止まらないと次の選択肢がない
〇抗生物質
抗生物質で改善が認められないときに「ずっと同じものを服用し続ける」「効かないため抗生物質を処方しない」「抗生物質を変更しつづける」
〇食事療法
食物アレルギーを疑い魚、ポテト、動物性蛋白なし、アミノ酸系・・・・色々試す
こういった点は陥りがちなポイントで、迷走する原因になります。
アポキルが効かないときはアポキルが効く痒みとは異なる痒み原因へのアプローチを考えるとうまくいきます。
抗生物質が効かないときは「抗生物質が効く病変なのか再検討」「抗生物質が効くのか検査」「そもそも菌が増える理由はどこにあるのか?」を考えていくとうまくいきます。
食事療法は「そもそも食物アレルギーなのか?」から考えていく必要があります。
要するに皮膚病が治らない原因は1つではなく複数、同時にすべてへのアプローチがそろわないと改善しないこともあります。
今回紹介する症例は、そんなわずかなズレの積み重ねでよって難治性になっていた症例です。
【症例】
トイプードル 4歳半 男の子
【経過】
〇4ヶ月前から皮膚トラブル(痒み&脱毛)
〇手舐め、足舐め、口唇をかく、繰り返す背中の湿疹
それでは初診時の状態をみてみましょう。
まずは顔の正面。
続いて、口唇(左)です。
続いて、右側。
続いて、頚部です。
続いて、胸部とその拡大です。
続いて、腹部です。
続いて、背中とその拡大です。
続いて、側面とその拡大です。
初診時から約3ヵ月後の状態と比較してみましょう。
※写真をクリックすると大きくすることができます。
非常に綺麗に改善しました。
改善点①毛並み
全体的に薄毛でしたが、フワフワの状態にもどっています。
トイプードルの薄毛ではアロペシアX(毛周期停止)か、その他のホルモン異常かいくつかありますので各種検査が必要です。
時に難しい判断になる検査結果となり悩むことはありますが、それなりのアプローチ方法がありますので改善の余地は高いと考えています。
改善点②湿疹
特に薄毛の部分(胴体)に全体的に認められた湿疹(膿皮症)ですが、抗生物質をやめてもほぼコントロールできています。
※現在初診から半年以上経過しましたが、湿疹の再発はほぼなし
改善点③脂漏
口唇、四肢を中心に「かひ」を認めましたが、綺麗な状態を保っています。
改善点④手舐め・足舐め・痒み
基本はアトピーでいいのですが、アトピー単独であれば過去のシクロスポリンやステロイドで十分に緩和できていたはずです。
改善できなかった理由は心因性なのですが、心因性だけで痒かったわけではないため、アトピー対策と心因性対策の両方を行えばバランスが取れます。
しつこい手舐め・足舐めは心因性へのアプローチにより改善しました。
トイプードルは他の犬種に比較して薬の反応が非常にいいタイプの子が多いので、アプローチ方法さえ間違わなければかなりの確率で治療成績がよくなります。
トイプードルの皮膚病治療でお困りの方は当院を受診してみてください。
なお今回のトイプードルのアトピー、脂漏、心因性、湿疹には当院が開発したスキンケア&サプリメントは非常に効果的です。
当院が開発したスキンケア&サプリメントは以下のオンラインショップからお買い求めいただけます。
脱毛はスキンケア&サプリメントでは改善せず、アトピー・脂漏・湿疹の治療成績にも関わりますので、必ず適切な投薬治療を併用しましょう。
投稿者:
2018.05.11
ポメラニアンやトイプードルに多い脱毛症「毛周期停止(アロペシアX)」の治療に力を入れている皮膚科専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
かつてはポメラニアンに圧倒的に多く「ポメハゲ」といわれていたこともあるアロペシアX(今では毛周期停止)についてです。
この毛周期停止(アロペシアX)ですが、「命に関わらないため無治療」という選択肢が浸透していることと、細かい原因が分かっていない、確実な治療方法の解明が不十分ということもあり、今の皮膚科医療ではあまり治療に力が入れられていません。
治療に関してはさまざまな価値観があることを十分に考えつつですが、当院ではかなり積極的に治療を行っています。
今回は近畿から来院されているトイプードルの毛周期停止(アロペシアX)の症例です。
実は大分前にも一度掲載しています。
まずはそのときのブログを紹介しますので、ぜひ目を通してください。
1回目の症例報告 平成29年2月25日 アロペシアXと診断されたトイプードルの脱毛症
このブログの後半でも解説した通りですが、その後順調に発毛し続け・・・とはいかず、急に脱毛が再発し初診時よりさらに毛が少なくなってしまいました。
もちろん想定がいではなく、初診時の想定の範囲内でしたので、改めて治療方針を組み直しました。
それが平成29年5月、当初の予定通り毛周期停止(アロペシアX)に対する積極的な治療に切り替えました。
まずは初診時の状態を改めてみてみましょう。
まずは症例の正面から。
続いて、頚部です。
続いて、胸部です。
続いて、腹部です。
続いて、右側面全体です。
この右側面の胸部拡大です。
同じく右側面の腰~大腿部の拡大です。
続いて、左側面とその拡大(胸部・腰背部)です。
続いて、背中全体です。
最後に、大腿部尾側です。
この初診時から1年半後、治療方針変更から11ヵ月後のつい先月の状態との比較をみてみましょう。
※写真をクリックすると大きくすることができます。
非常に美しい被毛が再生してきました。
この症例を解説していきます。
まず1点目、検査結果が甲状腺ホルモン濃度の低下(検出限界未満)があったことから仮診断した「甲状腺機能低下症」についてです。
この脱毛が甲状腺機能低下症によるものであれば、甲状腺ホルモン製剤の投与だけで完全によくなると考えています。
予測通りとはいえ結果的に一時的な発毛しかなかったため、この症例の脱毛は甲状腺機能低下症によるものではなかったと考えるのがベターと思います。
ただ「甲状腺機能低下症ではない」とまではいえませんし、ユーサイロイドの可能性もありますので、しばらく甲状腺に関してはグレーのままです。
今後は白黒はっきりつけてみたいな、とは思います。
続いて2点目、甲状腺ホルモン製剤による発毛について。
完全に発毛しなかったとはいえ、一時的にはかなり発毛が認められました。
これは甲状腺ホルモン製剤が発毛を促したことを示唆しています。
甲状腺機能低下症ではない健康なわんちゃんが甲状腺ホルモン剤を服用することはリスクがあるため安易に服用すべきではないのが医療ですが、モニターしながら治療の1つに入れ込むのは選択肢の1つだと思います。
最後に3つ目、アロペシアXへの積極的な治療について。
治療から11ヶ月という長い期間をおいての発毛でしたが、だいたいアロペシアXの治療結果は1年前後かかるため、今回の症例の脱毛もアロペシアXによるものだったと考えられます。
大事なことは甲状腺ホルモン濃度の低下をみて「甲状腺機能低下症」を最終診断とせず、初診時の目でみた第一印象(先入観)を検査結果より重要視することです。
検査が100%であれば検査前提ですすめればいいのですが、検査はときに関係ないことをさも関係しているかのような誤解をさせますので、自分の眼を信じる方がいいこともあります。
木をみて森をみずにならないよう、常に「この検査結果はこの症例の本当の姿を評価しているのか?」を診極めなければいけません。
獣医師は検査をするのが仕事ではなく、検査結果を予測して適切に治療に生かすことが仕事です。
今回は近畿からの通院でしたが、一度も欠かすことなく1年半継続して治療を続けた飼主さまには本当に感謝です。
ご期待に沿うことができて本当にうれしく思います。
この毛周期停止(アロペシアX)の治療ですが、当院ではしっかりとした診断と説明の上で積極的な治療も提供しています。
お困りの方は一度当院受診をご検討ください。
投稿者:
2018.05.06
ポメラニアンとトイプードルに多い脱毛症「毛周期停止(アロペシアX)」の診断・治療に力を入れている皮膚科専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
毛周期停止(アロペシアX)は古くから知られた病気ですが、「命に関わらない」という理由で治療が十分に行われていません。
当院でもこういった点は十分に説明しつつ、治療にはかなり積極的に取り組んでいます。
今回紹介するわんちゃんはちょっと特殊な条件で当院を受診された脱毛症のトイプードルの症例です。
【症例】
トイプードル 11歳(初診時) 男の子(去勢済み)
【経過】
〇7才以降での脱毛発症
〇食欲増加・多飲・脱毛を認め、ALPなどの各種検査結果にて「副腎皮質機能亢進症(クッシング)」の診断を受け、トリロスタンにより治療を受けている(約7~8才から)
〇治療を続けるも年々脱毛が進行している
初診時の状態をお見せしたいのですが、手元のデータで見つけることができず・・・
当院受診から2年ほど経過して「脱毛がさらに進行した状態」の写真を飼主さまにいただきましたので紹介します。
当院受診時にはまだあったのですが、そこから脱毛進行は止まらず写真のように胴体の毛はほとんど抜け落ちてしまいました。
ただ治療は継続しつつ、初診時から2年3ヶ月経過したとき、はじめて毛の再生が始まりました。
再生が始まってから約半年、初診時から2年9ヵ月後の状態をみてみましょう。
初診時との比較ではないのですが、脱毛が進行した状態との比較を掲載しておきます。
14歳にしてここまで改善するとは思いませんでした!
さらに、慢性的に悩んでいた痒みも随分と改善しました。
やはりアロペシアは皮膚コンディションの低下を起こしますので、膿皮症や痒みなどの悪化因子になります。
当院では毛を生やすという意味だけに注目するのではなく、アロペシアによって低下した皮膚コンディションの改善を目標に、例え命に関わらなくても治療の意味はあると考えています。
ここで今回の症例を分析してみたいと思います。
当院を受診する前の病院ですでに「副腎皮質機能亢進症(クッシング)」と診断を受け、治療中という状態で当院の初診でした。
当院で考えたのは、
①クッシングは正しい診断か?
②アロペシアがあるのか?
です。
まず①のクッシングの有無ですが、過去の症状と検査結果を聞く限りでは十分にクッシングを支持する内容でしたので、当院で改めて「クッシングではない」とする理由は見つかりませんでした。
ただ、クッシングであればここまで脱毛することもそうないため、②のアロペシアを考慮して「クッシングがあるかどうかはわからないが、アロペシアも存在する」としました。
クッシングがあってもなくてもアロペシアの治療がクッシングの治療と重なるため詰めるのはやめて、治療内容をよりベターなものへと変更していきました。
治療結果としては「2年3ヶ月間は脱毛進行、2年4ヶ月目から発毛」でしたので、反応は非常に遅かったという分析です。
クッシングだけでアロペシアがなければここまで時間がかかることはないと思いますし、クッシングであれば年単位でみると徐々に減るため、脱毛に関してはアロペシアの要素が強かった脱毛疾患と判断できます。
当院受診までが長いアロペシアのわんちゃんほど発毛に時間がかかるため、この症例は発毛までに長くかかったと思われます。
逆にここまで発毛すると「クッシングは本当にあるのか?」という疑問も再び湧いてきますが、ここの判断は非常に難しいと思います。
ポメラニアンやトイプードルの毛周期停止(アロペシアX)の治療についてはデリケートなため色々考えることはあるのですが、当院ではこのように「飼主さまが希望を持つ限りあきらめない」を徹底しています。
ポメラニアン・トイプードルの脱毛疾患「毛周期停止(アロペシアX)」の治療でお困りの方は一度当院までご相談ください。
投稿者:
2017.09.12
愛知・名古屋エリアで皮膚病治療に力を入れている皮膚病治療専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
当院では痒みを伴う皮膚病治療に力を入れていますが、ときに「痒みを伴わない脱毛症」のわんちゃんも来院されます。
ただ脱毛症は痒み疾患と異なり、原因が特定できないことも珍しくありませんし、結果(発毛)がでるかどうかも予測できないこともあり、診療としては難しいジャンルです。
今日はそんな難しい脱毛症の中でも非常に興味深かった症例を報告します。
【症例】
トイプードル 約1歳
まずは初診時の状態を紹介します。
一見全く問題ないトイプードルちゃんにみえますね。
それでは脱毛部位を順次みていきましょう。
まずは右耳とその拡大(合計3枚)。
続いて、左耳です。
続いて、右後ろ足です。
続いて、左後ろ足です。
最後に、尾です。
治療後の状態と比較してみましょう。
※画像をクリックすると大きくすることができます。
非常に綺麗になりましたね。
100%回復といっていいと思います。
今回のポイントは
①原因がわかったこと(確定は不可能ですが、まず間違いなくそうと判断できた)
②改善が十分に見込めた
③改善が早かった
です。
こういったタイプの脱毛症、トイプードルに非常に多く認められます。
そして原因不明のことが多いのですが、原因不明でも打つ手はあります。
前回の記事で紹介した柴犬の耳の脱毛も同様です。
当院ではスキンケア商品・サプリメントの使用を含めた業務提携をしている病院にはこういった症例の治療アプローチについて解説しています。
興味のある方は専用フォームからお問い合わせください。
※皮膚科のない個人動物病院向け
投稿者:
2017.02.25
ポメラニアンやトイプードルに非常に多いアロペシアX(毛周期停止)の治療に力を入れている皮膚病治療専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
この1年、アロペシアXのポメラニアン、トイプードルのわんちゃんの受診が非常に増えてきています。
以前は数ヶ月に1件程度だったのですが、この1年は月1件以上のペースで来院されています。
アロペシアXの治療は非常にデリケートのため、「生える・生えない」だけではないさまざまな視点から診ることが必要ですが、当院では選択肢の1つとして積極的な治療を提案しています。
※治療しない選択肢も同時に提案します。
今日はそんなアロペシアXに関する症例報告です。
【症例】
トイプードル 6歳10か月 男の子(去勢済み)
【症歴】
〇2歳から毛が薄くなり、「アロペシアXの疑い」の仮診断
〇遠方の病院を受診し、投薬治療により発毛を認める
〇再び脱毛がはじまったが、以前の動物病院が閉院したことで当院受診
まずは初診時の状態をみてみましょう。
続いて、頚部。
続いて胸~腹部。
続いて、身体側面。
続いて、背中。
最後に後ろから。
それでは初診時から14週間後(治療期間12週間)の状態と比較してみましょう。
※画像をクリックすると大きくすることができます。
部分的に薄い部位も残っていますが、正常の70%くらいまで改善しています。
また、「脱毛の進行とともに生えている毛が薄くなってしまった」ということでしたが、元々の「濃い毛」が再生してきました。
今回の症例のポイントはいくつかあります。
①2才のころの脱毛はアロペシアXだったのか?
②一旦改善したが、そのときの処方内容はなんだったのか?
③初診時に何を疑ったのか?
④初診時に何を検査したのか?
⑤当院で行った12週間の投薬治療は何か?
⑥今後は?
です。
ではまず①の「2才の脱毛はアロペシアXだったのか?」について。
正直なところわかりません。
ですがアロペシアXの可能性が高いのでは?と思っています。
では②の「一旦改善したときの処方内容は?」です。
残念ながら色々なお薬を混ぜて処方されていたようで、飼主さまもわからないということでした。
今となっては確定できないことですが、有名な動物病院でもあったので、「おそらくこんな処方だったのでは?」とイメージするものはなくはありません。
では③の「初診時に何を疑ったのか?」です。
もちろんアロペシアXを疑います。
そして同時に甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症も十分に疑うべきです。
では④の「初診時に何の検査をしたか?」です。
甲状腺と副腎の評価を行いました。
では⑤の「12週間の投薬治療」についてです。
実は、
甲状腺ホルモン剤を処方しました。
もちろん甲状腺ホルモン濃度が明らかに低下していたためです。
しかし皮膚科や内分泌疾患の著名な先生たちはこのように注意されます。
『アロペシアXの症例に甲状腺ホルモン濃度測定を行い、ホルモン濃度のわずかな低下を甲状腺機能低下症と誤診して、長期間甲状腺ホルモン剤を処方されて脱毛したままの症例をみますが、いくら処方しても毛は生えませんからね。あれはユーサイロイド(偽甲状腺機能低下症)です。注意しましょう』
※偽甲状腺機能低下症・・・甲状腺ホルモン濃度は甲状腺機能低下症でなくとも下がる場合もあり、検査結果で「本当は甲状腺機能が正常であるのに、その他の要因でホルモン濃度が低下した状態であり、投薬の必要はない」
皮膚科や内分泌セミナーで「陥りがちな誤診」としてよくある話なのは重々承知した上で、飼主さまにも同様の説明した上で治療方針を決定しました。
最後に⑥、「今後は?」です。
確かに一気に被毛の再生が認められましたので、「甲状腺機能低下症の診断&治療があっている」という見方もできます。
しかし個人的にはアロペシアを強く疑い、今回の甲状腺の内服治療も「3~6ヶ月で改善がなければアロペシアXと考えましょう」として処方したので、正直なところ「生えたんだ!?」とちょっと驚きでした。
そして確かに生えたのですが、「アロペシアXではない」とまではいえません。
甲状腺機能低下症+アロペシアXの可能性もありますし、アロペシアX単独の可能性もなきにしもあらずです。
まだ3ヶ月なのでどちらともいえないでしょう。
被毛がほぼ100%まで改善し、それがずっと続けば甲状腺機能低下症単独を考えますし、今後再び脱毛がはじまればアロペシアXを疑うべきだと思っています。
診断・治療は時に紙一重です。
検査結果、一時的な治療結果ともに信用しすぎず、常に1歩さがって全体を見渡しておく必要がります。
また報告する機会を作りたいと考えています。
投稿者:
2016.10.06
こんにちは、四季の森どうぶつクリニックです。
今日はトイプードルの代表的な脱毛症、アロペシアX(毛周期停止)の治療症例報告です。
実は昨年にも紹介したわんちゃんですが、その後の経過です。
【症例】
トイプードル 5歳 女の子(避妊済み)
【経過】
〇2年前からの脱毛
それでは初診時の状態です。
去年の記事では「あと半年後には・・・」とかきましたが、実際はあれから1年です。
※写真をクリックすると拡大してみることができます。
かなり時間がかかっていますし、まだまだ少ない部分もあるのですが、これでも随分と改善してきました。
そもそもアロペシアX(毛周期停止)は治療困難な病気の一つで、さまざまな治療方針がありますが、簡単に生える治療はありません。
その中でここ数年は治療成績が高くなってきて、かなりの確立で被毛の再生ができるようになってきたのですが・・・やはり脱毛症の中でもアロペシアXは治療成績が読めない部分がありますね。
今回も比較的初期に「おっ!いけるか!?」と思ったのが昨年の10月だったのですが、そこから低迷期に入り・・・・・・・・この3ヶ月くらいでようやく生えてきました。
初診時が昨年の夏なので、1年かけてようやくです。
このアロペシアXという脱毛症は古くからポメラニアンで時々発症する有名な病気で、最近ではトイプードルでも発症しやすい脱毛症です。
治療の必要性については人それぞれ意見があると思うのですが、個人的には
「ここ(当院)で治療しなければこの子の毛並みが戻るチャンスは2度とない。自分がやらねば誰がやる?」
という最後のクリニックの使命感で治療の希望に全力でこたえるようにしています。
僕も加齢とともに薄くなったら全力で抵抗する予定です(笑)
投稿者:
2015.10.23
こんにちは、四季の森どうぶつクリニックです。
秋が深まっているのですが、晴れた日の日中の車の中はまだまだ暑さも感じますね。
では今日は当院の症例報告にはあまり出てこない「脱毛症」についてです。
脱毛症と一言にいっても原因はさまざまなのですが、一般的に治療成績がでにくい脱毛症として「毛周期停止(少し前までアロペシアX)」という病気があります。
今回はそのアロペシアXの中でもさらに「治療反応が悪い」と評されているトイプードルのアロペシアの症例を紹介します。
地肌も見えますし、横から背中のラインがすけてみえるほど被毛が薄いのがわかります。
治療開始から2ヵ月後です。
非常に綺麗な被毛が再生してきました。
まだ局所ですが、まずこれでうまくいくと思います。
治療成績がでにくいアロペシアXですが、最近はかなり治療成績が高くなってきました。
選択肢としてはかなり積極的な治療と、やや消極的な治療の2パターンあるのですが、ある組み合わせの相性がいいことに最近気づきました。
根拠はないんですけど、いけそうな感触です。
半年後にはいい結果がだせていると思います。
投稿者:
2015.09.01
こんにちは、四季の森どうぶつクリニックの平川です。
今日は晴れたり大雨だったり・・・天候の急変が多い1日でしたね。
最近はかなりこまめにブログを書いていますので、ぜひ以前の記事もみてください。
さて、今日は「名前は知っているけど診断し難い&治し難い」という皮膚病です。
症例はトイ・プードルです。
痒みとして目立つ部位の一つは背中です。
少しわかり難いので、赤い枠で記します。
拡大してみましょう。
この部位だけ被毛が短くなっているのがわかると思います。
何度もかじることでその部位だけ毛が短くなっています(毛が抜けているわけではない)。
続いて、右側です。
同じように赤い枠で記します。
2箇所をそれぞれ拡大しましょう。
続いて、左側です。
少し拡大してみます。
痒い部位を記してみます。
それでは初診時から1ヵ月後です。
それぞれ画像をクリックすると拡大することができます。
痒みもほとんどなくなり、均一な毛並みにもどっています。
さて、初診時に僕が下した答えは・・・・・・・・・・・「心因性皮膚病」です。
心因性皮膚病、これは精神的な問題で痒み行動を引き起こすという皮膚病です。
アレルギーでもなく、菌でもなく、寄生虫でもなく、ホルモン疾患でもありません。
客観的な検査方法もなく、明確な診断基準もありません。
また、心因性にはホルモン疾患、寄生虫疾患、細菌性皮膚炎などのように、皮膚そのもに特徴的な診た目があるわけでもありません。
典型的な場所であればまだわかりやすいこともなるのですが、今回の症例は典型的な場所ではありませんでした。
ではどのように診断するのか?
基本的なことですが、話を聞く、わんちゃんの行動をよくみる、皮膚をよくみる・・・・・たったこれだけです。
診察室に入り話をききながら、わんちゃんの動作を見る、皮膚をみる・・・15分くらいあれば頭の中には「心因性」という言葉が最上位にきます。
あとはその他の疾患を除外しながらアプローチします。
実は心因性皮膚病を診断するために、あと一つ大事なポイントがあります。
それは検査でも、診た目でもなく・・・・・・積極的な診療をしていくとだんだんとつかめてくることです。
逆に消極的な診療ばかりしていると、なんとなく診落とされがちで「癖?」とされていたりします。
「アグレッシブに美しく」
皮膚病は初診時の診極めが最も重要で、今回も確信をもってアプローチできました。
投稿者:
2014.01.21
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック獣医師平川です。
今回はトイプードルの脱毛症の治療症例を報告します。
トイプードルは難治性皮膚病になり易い犬種ではありませんが、近年は人気犬種として飼育頭数が多いため、皮膚病の来院数としても多くなってきています。
【症例】
プードル 12歳 女の子
【病歴】
〇2年前から背中~頚部の脱毛とフケ
初診時の状態です。
背中の被毛の薄い部分を拡大してみましょう。
カルテの条件とこの初診時の診た目でいくつかの疾患をピックアップすることができます。
あとは1つ1つ丁寧に精査すれば確定診断までそう難しくはありません。
初診時から3ヶ月後の状態と比較してみてみましょう。
100%の状態まで被毛が再生しました。
被毛の数だけでなく、トイプードルらしい美しい被毛が再生しています。
普段あまり診断名まで言及しませんが、中高齢のトイプードルでこのような被毛の減少を感じている方は意外と多いのではないかと思うので、少し解説を加えていきます。
多くの飼主さまが『年をとったから・・・』と見過ごされていることも多いかと思いますが、これは内分泌疾患(ホルモン疾患)の一つです。
犬の中高齢のホルモン疾患といえば、甲状腺機能低下症と副腎皮質機能亢進所(クッシング症候群)そして性ホルモン過剰症などを鑑別診断として挙げられます。
内分泌疾患を疑ったときに行うべき検査は、
〇一般血液検査(貧血、肝臓、腎臓・・・などなど)
〇甲状腺ホルモン測定(血液中のホルモン濃度測定)
〇副腎皮質機能検査(血液中のホルモン濃度測定)
〇超音波画像検査(副腎、甲状腺、卵巣)
〇尿検査
です。
なぜすべて必要か?
それは病気を1つ見つけただけで終わってしまうと「木を見て森を見ず」になってしまうためです。
心理学的にも陥り易いことですので非常に難しいところですが、
『(簡単に)見つかった異常所見にとらわれてしまい、その奥に隠された本質(本当の病気)を見落とす」
が起こり易いのがこの内分泌疾患です。
近いうちにそういった「木を見て森を見ず」で難治性となってしまった症例を紹介しようと思います。
投稿者: