2014.09.22
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。
前々回にチャイニーズ・クレステッドドッグの症例報告で「検査結果が出揃っていない初診時に、病態(診断名)と治療方針をどこまで的確に予測できるか?」というテーマで解説してみました。
そして前回はアメリカン・コッカー・スパニエルの実際の症例を紹介し、「一部未確定要素が残りつつも、いかに治療方針を初診時に組み立てるか?」というテーマにチャレンジしてみました
簡単に言えば「診断名があってこその治療方針」は当然なのですが、時に検査結果が出揃うために時間がかかることもあれば、中には白黒はっきりつかないグレーゾーンの検査結果で悩むこともあり・・・必ずしも教科書的な診断名の枠組みに当てはまらない症例もいるわけで、そういうときにどうするのか?・・・例え検査結果が出揃っていなくても、確定診断を得ることができなくても治療結果を引き出すことはできないのか?です。
さて、5年前から繰り返す皮膚病、3年前から悪化して一度も改善することなく通年性の皮膚病となっていたA・コッカーの症症例に戻りましょう。
前回初診時の情報を掲載したので、今日は早速治療から3週間後をみてみましょう。
それぞれ画像をクリックすると拡大することができます。
頚部も改善しているのですが、いい写真がなくまた別の機会に掲載しようと思います。
まだ治療中ではありますが、3年間改善がなかった皮膚が見違えるように綺麗になってきています。
腹部超音波画像検査で副腎が約8mm、尿コルチゾール・尿クレアチニン比が7.8と高値を示しているため副腎皮質機能亢進症の疑いも残っていますが、まだACTH検査・LDDS検査は行っておらず今後行う予定です。
そのためまだ確定診断はついておらず、なぜ全身性の通年性の皮膚疾患になったのか?という答えはでていません。
ですが、ある程度の絞り込むことでも診療方針を立て、改善へのストーリーを描くことは可能です。
原因がわかってこその治療方針というのが基本であることに変わりはないのですが、皮膚科の場合は原因を追究することと治すことがそこまで関係がないこともあります。
そのため「確定診断⇒治療法の選択」という教科書的な考えにとらわれた診療だけでは不十分な場合もあります。
では、この症例で各種検査結果から何を考えていくべきか?
それはまた次回♪
投稿者:
2014.09.20
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。
前回のチャイニーズ・クレステッドドッグの症例報告記事では「検査結果が出揃っていない初診時に、病態(診断名)と治療方針をどこまで的確に予測できるか?」というテーマで解説してみました。
普段から「診極め」、「初診時に的確な病態把握を」と意識しているため、診断名をつけることは非常に重要だと考えています。
・・・が!
教科書的な枠組みの診断名こそがすべてか?といわれると、医療はそうではないと考えています。
おおげさかもしれないですが、生命の神秘という言葉もあるなかで人が考えた枠組みにすべて綺麗に分類される・・・なんてありえないと思います。
実際すべての病気が既存の検査法だけで診断名がつくわけではなく、「教科書に記載されている条件を満たさない症例」も数多くあります。
そのため医療は診断至上主義ではなく、未確定要素を含みながらも治療を組み立てることもとても重要だと考えています。
今回はそんな「一部未確定要素が残りつつも、いかに治療方針を初診時に組み立てるか?」というテーマで実際の治療症例を解説していきます。
【症例】
アメリカン・コッカー・スパニエル 約10歳 女の子(避妊手術済み)
【経過】
〇1~2才まではまったく皮膚トラブルなし
〇5才ごろから痒みを伴う皮膚病
〇毎年夏になるとかゆがり、冬はトラブルない
〇3年前から頚部がべたつくようになり、1年を通して皮膚病がでるようになった
〇べたつきは頚部にはじまり、今ではワキ・四肢全体に広がっている
初診時の状態をみてみましょう。
まずは頚部から。
続いて、右前肢。
同じく右前肢の肘内側の拡大。
同じく右前肢の手首内側付近の拡大。
同じく右前肢の甲の部分です。
続いて、右後肢の内股の状態です。
今回は右側のみを掲載していますが、すべて左右対称に病変が存在します。
何をかんがえるか?
まずはカルテの情報では約10才、コッカー・・・
コッカーといえば脂漏が起きやすい犬種で、非常に難治性になりやすい体質を持っていると評価できます。
続いて年齢は約10才ということで高齢期の入り口ですが、初発は5歳のため高齢期の発症とは言えません。
次に考えるのは5歳のときの皮膚病と今の皮膚病が同じかどうかを考えるのですが、おそらく違うのではないかと考えました。
そう考える理由は2つ、1つ目は当初明確な季節性があったにもかかわらずこの3年は明らかな通年性で1度もよくなったことがないと飼主さまがおっしゃっていたためです。
もう一つは病変部、高齢期にかけて明らかな拡大・悪化が認められているためです。
5歳からの季節性の痒みであればアトピーなどを疑いますが、中高齢期での悪化は内分泌疾患を疑うべきです。
続いて痒みのある部位ですが、耳、口唇、頚部、四肢を中心に痒みが認められました。
この「季節性」、「耳・口唇・頚部・四肢」という条件でもやはりアトピーを含めたアレルギー疾患を疑います。
また、写真は掲載していませんが、背中には多量のフケを認めました。
以上のカルテ情報、飼い主さまからのお話、病変部から
〇最初の発症はアトピーの疑い
〇中高齢期での悪化は内分泌疾患の併発を疑う
と考えました。
必要な検査は
一般皮膚検査
細菌培養・感受性検査
一般血液検査
内分泌血液検査
超音波画像検査
尿検査
です。
ここで内分泌疾患について、具体的に何を考えるべきか?
一般的には甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症です。
実はもう一つ考えてもいいものがあるのですが、そこはあえて伏せておきます。
上記の2つの内分泌疾患のうち、甲状腺機能低下症は初診時に血液検査(場合によって超音波画像検査追加)で判定できます。
では副腎皮質機能亢進症は初診時に行うか?というと、現状では最優先で行うほど典型例ではないため、腹部超音波画像検査と尿検査を先に行うことにしました。
副腎皮質機能亢進症の血液検査は時間がかかること、コストも高め、判定も難しいため、「疑いが高い場合にのみ実施する」とした方がいいため、回り道のように感じることもありますが、腹部超音波と尿検査を優先します。
ではこの2つの検査で何かわかるか?
超音波画像検査では副腎サイズ、形がわかります。
副腎皮質機能亢進症ではサイズが大きく、中には形が変わっていることもあります。
また尿検査では「副腎皮質機能亢進症の可能性はない」という結果がでることもあるため、無駄な検査を初期に除外することも可能です。
参考までにこのコッカーの副腎サイズは約8mm、尿検査で尿コルチゾール・尿クレアチニン比は7.8と副腎皮質機能亢進症の疑いが高い・・・・という判定でした。
ではこの時点で続いてACTH試験、判定がグレーであればさらに追加でLDDS試験を行うべきか・・・?
行ってもいいと思うのですが、そこまでしなければ治療方針が一切立てられないか?、副腎疾患の有無の前に改善させることができる治療方針がないのか?・・・そんなことありません。
これらの検査結果が出揃う前から、むしろ初診時でも治療方針は立てることが可能です。
何も検査結果がでていなくてもほぼストーリーは描くことが可能です。
そして内分泌疾患の判定がすべて終わる前であっても改善は十分可能です。
それでは治療開始から3週間後、
それは次回に♪
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