2014.02.16
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック獣医師平川です。
3年ほど前から『皮膚を丁寧に診る』だけではなく『犬種別に診る』皮膚科診療を意識するようになりました。
まずその犬種の体質をよく知ること、個人的に最重要犬種として挙げたのがシーズー・フレンチブルドッグ、そして柴犬です。
シーズーは当院のメディカルスキンケアで3~4年前からほぼ治療法を確立することができ、フレンチブルドッグもその延長のスキンケアで多くを改善できるようになりました。
そして最後に、何か掴みかけた感触程度ですがこの1年で柴犬を診れるようになった気がしています。
そこで柴犬の皮膚病をまとめようと連続で症例報告を作成しています。
【症例】
柴犬 10歳 男の子
【病歴】
〇約5年前から強い痒みを伴う皮膚病
〇1件目動物病院はステロイドを使わない方針で当初インターフェロン、食事療法、免疫抑制剤(2年間)、抗真菌剤を使用するが改善せず、最終的にステロイドを試すも内服をやめるとすぐに強い痒みが再発する
〇2件目動物病院ではアレルギー検査とホルモン検査を受け、ステロイドと精神安定を期待したサプリメント
時に抗生物質、抗ヒスタミン剤、甲状腺ホルモン剤、外用薬なども使用するが改善なし
〇最終的にエリザベスカラーを常時装着しなければいけない状態まで悪化
初診時の状態をみてみましょう。
まずは顔の左側から。
続いて、下顎~頚部。
続いて、身体の右側から。
胸部、右側から。
続いて、右前肢の肩~上腕。
同じく右前肢の手根~肢端。
続いて、頚部~前胸部。
続いて、腹部全体。
それでは3カ月半後の状態と比較してみましょう。
短期間で非常に綺麗に改善することができました。
エリザベスカラーも外し、わんちゃんらしい日常生活を送ることもできるようになりました。
強い痒みから解放されたのか、思い返せばイライラしていたのもなくなり、穏やかになったと喜んでいただけました。
さて、過去の治療と何が違うのか?
診断名、治療内容については来院された方にのみお話していますので、ここでは詳しく解説できませんが、皮膚病で困っている柴犬の飼主さまは気になると思いますので、それぞれのお薬について少し説明をしておきたいと思います。
①インターフェロン
これは犬アトピー性皮膚炎の治療の選択肢ですので、アトピーと診断して使用したのだと思います。アトピー治療としての改善率も極端に高いわけではないのでインターフェロン単独での治療は中々難しいのが現状です。そのためインターフェロンで改善がないからインターフェロンが効かなかったと判定することはできず、治療の優先順位を間違えたがゆえに効果あるべきものも効果を示せなかったということも考えられます。決して効果を期待できないないわけではないので、個人的には多剤との併用などは十分に生かせるのではないかと考えています。
②免疫抑制剤
動物用免疫抑制剤は同じく犬アトピー性皮膚炎に非常に効果があり、症状の改善に役に立つと思います。ネックは非常に高額な医療費がかかることでしょうか。このお薬を2年間毎日服用させ続けた飼主さまの努力にはまさに血のにじむ想いだったと思われます。
③抗ヒスタミン剤
同じく犬アトピー性皮膚炎に使用します。単独での使用では痒みを抑える作用が弱いため、個人的には予防的な抗アレルギー剤と考え、ステロイドやインターフェロンとよく併用するようにしています。
④抗生物質
皮膚炎の原因に細菌が関与していることが多いため、皮膚科診療では非常に重要で、当院でもよく使用します。
⑤甲状腺ホルモン剤
甲状腺機能低下症が皮膚機能低下を引き起こし、難治性皮膚疾患の原因となるため甲状腺機能低下症の症例には生涯投与が必要になります。当院でもよく診断する疾患の一つです。
⑥抗真菌剤
マラセチア性皮膚炎や糸状菌が関与した真菌性皮膚疾患に使用します。当院でもよく使用する薬剤の一つです。
⑦サプリメント
今回は抗不安効果のあるサプリメントですが、当院でも心因性の痒みに対してよく使用します。
⑧ステロイド
ステロイドは極力使わない、脱ステロイドという言葉がありますが、個人的にはステロイドは「使うべき」か「使ってはいけない」のどちらかで極力使わないや脱ステロイドという考え方ではステロイドを必要とする皮膚疾患を治すことは難しいと考えています。
⑨食事療法
これも非常に重要ですね。当院でも食事療法だけで治るとはいいませんが、治療成績が向上するのでおすすめしています。
皮膚科診療で登場する大半の治療法が登場したと思います。
おそらく2件の動物病院では柴犬に多いアレルギー性皮膚炎(特に犬アトピー性皮膚炎)を疑って治療したと思われます。
参考までに当院で使用した薬は最大で4種類、改善を確認しながら少しずつ減らしていきました。
この治療の選択の違い「診極める」で、病態を的確に把握し、適切な診断名と治療法を選択すれば極めて稀な疾患を除き、特別な魔法の薬などなく治すことができると考えています。
最も陥り易いミスは「豊かな経験に基づいた先入観」です。
確かに豊かな経験は診療における重要な武器の一つですが、先入観は紙一重で引き返せない迷走に入ることすらあります。
僕もどうしても一瞬の診た目である程度絞り込んでしまいます。
診極めの中に豊かな経験は非常に重要だと思いますが、同時に先入観を捨て常に「もう一人の獣医師」を自分の中に作り出し、自分を疑うことを忘れないことも重要かと思います。
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