2018.05.11
ポメラニアンやトイプードルに多い脱毛症「毛周期停止(アロペシアX)」の治療に力を入れている皮膚科専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
かつてはポメラニアンに圧倒的に多く「ポメハゲ」といわれていたこともあるアロペシアX(今では毛周期停止)についてです。
この毛周期停止(アロペシアX)ですが、「命に関わらないため無治療」という選択肢が浸透していることと、細かい原因が分かっていない、確実な治療方法の解明が不十分ということもあり、今の皮膚科医療ではあまり治療に力が入れられていません。
治療に関してはさまざまな価値観があることを十分に考えつつですが、当院ではかなり積極的に治療を行っています。
今回は近畿から来院されているトイプードルの毛周期停止(アロペシアX)の症例です。
実は大分前にも一度掲載しています。
まずはそのときのブログを紹介しますので、ぜひ目を通してください。
1回目の症例報告 平成29年2月25日 アロペシアXと診断されたトイプードルの脱毛症
このブログの後半でも解説した通りですが、その後順調に発毛し続け・・・とはいかず、急に脱毛が再発し初診時よりさらに毛が少なくなってしまいました。
もちろん想定がいではなく、初診時の想定の範囲内でしたので、改めて治療方針を組み直しました。
それが平成29年5月、当初の予定通り毛周期停止(アロペシアX)に対する積極的な治療に切り替えました。
まずは初診時の状態を改めてみてみましょう。
まずは症例の正面から。
続いて、頚部です。
続いて、胸部です。
続いて、腹部です。
続いて、右側面全体です。
この右側面の胸部拡大です。
同じく右側面の腰~大腿部の拡大です。
続いて、左側面とその拡大(胸部・腰背部)です。
続いて、背中全体です。
最後に、大腿部尾側です。
この初診時から1年半後、治療方針変更から11ヵ月後のつい先月の状態との比較をみてみましょう。
※写真をクリックすると大きくすることができます。
非常に美しい被毛が再生してきました。
この症例を解説していきます。
まず1点目、検査結果が甲状腺ホルモン濃度の低下(検出限界未満)があったことから仮診断した「甲状腺機能低下症」についてです。
この脱毛が甲状腺機能低下症によるものであれば、甲状腺ホルモン製剤の投与だけで完全によくなると考えています。
予測通りとはいえ結果的に一時的な発毛しかなかったため、この症例の脱毛は甲状腺機能低下症によるものではなかったと考えるのがベターと思います。
ただ「甲状腺機能低下症ではない」とまではいえませんし、ユーサイロイドの可能性もありますので、しばらく甲状腺に関してはグレーのままです。
今後は白黒はっきりつけてみたいな、とは思います。
続いて2点目、甲状腺ホルモン製剤による発毛について。
完全に発毛しなかったとはいえ、一時的にはかなり発毛が認められました。
これは甲状腺ホルモン製剤が発毛を促したことを示唆しています。
甲状腺機能低下症ではない健康なわんちゃんが甲状腺ホルモン剤を服用することはリスクがあるため安易に服用すべきではないのが医療ですが、モニターしながら治療の1つに入れ込むのは選択肢の1つだと思います。
最後に3つ目、アロペシアXへの積極的な治療について。
治療から11ヶ月という長い期間をおいての発毛でしたが、だいたいアロペシアXの治療結果は1年前後かかるため、今回の症例の脱毛もアロペシアXによるものだったと考えられます。
大事なことは甲状腺ホルモン濃度の低下をみて「甲状腺機能低下症」を最終診断とせず、初診時の目でみた第一印象(先入観)を検査結果より重要視することです。
検査が100%であれば検査前提ですすめればいいのですが、検査はときに関係ないことをさも関係しているかのような誤解をさせますので、自分の眼を信じる方がいいこともあります。
木をみて森をみずにならないよう、常に「この検査結果はこの症例の本当の姿を評価しているのか?」を診極めなければいけません。
獣医師は検査をするのが仕事ではなく、検査結果を予測して適切に治療に生かすことが仕事です。
今回は近畿からの通院でしたが、一度も欠かすことなく1年半継続して治療を続けた飼主さまには本当に感謝です。
ご期待に沿うことができて本当にうれしく思います。
この毛周期停止(アロペシアX)の治療ですが、当院ではしっかりとした診断と説明の上で積極的な治療も提供しています。
お困りの方は一度当院受診をご検討ください。
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