2017.02.25
ポメラニアンやトイプードルに非常に多いアロペシアX(毛周期停止)の治療に力を入れている皮膚病治療専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
この1年、アロペシアXのポメラニアン、トイプードルのわんちゃんの受診が非常に増えてきています。
以前は数ヶ月に1件程度だったのですが、この1年は月1件以上のペースで来院されています。
アロペシアXの治療は非常にデリケートのため、「生える・生えない」だけではないさまざまな視点から診ることが必要ですが、当院では選択肢の1つとして積極的な治療を提案しています。
※治療しない選択肢も同時に提案します。
今日はそんなアロペシアXに関する症例報告です。
【症例】
トイプードル 6歳10か月 男の子(去勢済み)
【症歴】
〇2歳から毛が薄くなり、「アロペシアXの疑い」の仮診断
〇遠方の病院を受診し、投薬治療により発毛を認める
〇再び脱毛がはじまったが、以前の動物病院が閉院したことで当院受診
まずは初診時の状態をみてみましょう。
続いて、頚部。
続いて胸~腹部。
続いて、身体側面。
続いて、背中。
最後に後ろから。
それでは初診時から14週間後(治療期間12週間)の状態と比較してみましょう。
※画像をクリックすると大きくすることができます。
部分的に薄い部位も残っていますが、正常の70%くらいまで改善しています。
また、「脱毛の進行とともに生えている毛が薄くなってしまった」ということでしたが、元々の「濃い毛」が再生してきました。
今回の症例のポイントはいくつかあります。
①2才のころの脱毛はアロペシアXだったのか?
②一旦改善したが、そのときの処方内容はなんだったのか?
③初診時に何を疑ったのか?
④初診時に何を検査したのか?
⑤当院で行った12週間の投薬治療は何か?
⑥今後は?
です。
ではまず①の「2才の脱毛はアロペシアXだったのか?」について。
正直なところわかりません。
ですがアロペシアXの可能性が高いのでは?と思っています。
では②の「一旦改善したときの処方内容は?」です。
残念ながら色々なお薬を混ぜて処方されていたようで、飼主さまもわからないということでした。
今となっては確定できないことですが、有名な動物病院でもあったので、「おそらくこんな処方だったのでは?」とイメージするものはなくはありません。
では③の「初診時に何を疑ったのか?」です。
もちろんアロペシアXを疑います。
そして同時に甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症も十分に疑うべきです。
では④の「初診時に何の検査をしたか?」です。
甲状腺と副腎の評価を行いました。
では⑤の「12週間の投薬治療」についてです。
実は、
甲状腺ホルモン剤を処方しました。
もちろん甲状腺ホルモン濃度が明らかに低下していたためです。
しかし皮膚科や内分泌疾患の著名な先生たちはこのように注意されます。
『アロペシアXの症例に甲状腺ホルモン濃度測定を行い、ホルモン濃度のわずかな低下を甲状腺機能低下症と誤診して、長期間甲状腺ホルモン剤を処方されて脱毛したままの症例をみますが、いくら処方しても毛は生えませんからね。あれはユーサイロイド(偽甲状腺機能低下症)です。注意しましょう』
※偽甲状腺機能低下症・・・甲状腺ホルモン濃度は甲状腺機能低下症でなくとも下がる場合もあり、検査結果で「本当は甲状腺機能が正常であるのに、その他の要因でホルモン濃度が低下した状態であり、投薬の必要はない」
皮膚科や内分泌セミナーで「陥りがちな誤診」としてよくある話なのは重々承知した上で、飼主さまにも同様の説明した上で治療方針を決定しました。
最後に⑥、「今後は?」です。
確かに一気に被毛の再生が認められましたので、「甲状腺機能低下症の診断&治療があっている」という見方もできます。
しかし個人的にはアロペシアを強く疑い、今回の甲状腺の内服治療も「3~6ヶ月で改善がなければアロペシアXと考えましょう」として処方したので、正直なところ「生えたんだ!?」とちょっと驚きでした。
そして確かに生えたのですが、「アロペシアXではない」とまではいえません。
甲状腺機能低下症+アロペシアXの可能性もありますし、アロペシアX単独の可能性もなきにしもあらずです。
まだ3ヶ月なのでどちらともいえないでしょう。
被毛がほぼ100%まで改善し、それがずっと続けば甲状腺機能低下症単独を考えますし、今後再び脱毛がはじまればアロペシアXを疑うべきだと思っています。
診断・治療は時に紙一重です。
検査結果、一時的な治療結果ともに信用しすぎず、常に1歩さがって全体を見渡しておく必要がります。
また報告する機会を作りたいと考えています。
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