その他犬種

初診時に描く道

2014.09.19

こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。

先日知り合いの先生から「掲載されている症例報告の詳細について・・・特に診断名を!」と聞かれたので、過去に紹介した症例を用いて皮膚科診療におけるアプローチについて書いてみます。

今回解説する症例は、随分前に紹介したチャイニーズ・クレステッドドッグの皮膚病です。

治療前、治療後は前の記事を参考にしていただきたいのですが、今回は初診時にどこまで診極めることができるか?をメインに解説していきます。

まずは来院時のカルテ情報として、1歳8ヶ月、女の子(未避妊)のチャイクレです。

これが10歳こえてはじめて皮膚疾患になったトイプードルであれば内分泌疾患を疑いますし、2歳の柴犬ならアレルギーを疑うのですが、今回は「若いチャイクレ」という条件でそう多くないパターンですから、犬種として・・・と考えるにはまだ十分な情報とはいえません。

さて、メインの症状は痒み、背中以外ほぼ痒みがあります。

主に手首、お腹、目、口、鼻、耳です。

初診時の状態を病変ごとにみてみましょう。

目、鼻横、口唇に左右対称性の皮膚炎が認められます。

まず疑うべきはアレルギー性疾患、年齢や統計学的にはアトピー性皮膚炎>食物アレルギーと考えました。

続いて、前肢をみてみましょう。

右前肢全体、

腕全体的にかむ症状が認められますが、もっとも診た目で重症なのが手根(手首)のやや内側部分です。

続いて、左前肢をみてみましょう。

同じく左前肢の肘のあたりです。

アレルギー性皮膚炎の症状の一つに四肢の関節の痒みがあるため、これもアレルギーを疑う所見・・・なのですが、

しかし、ここでワンポイント!

この病変で「顔がアレルギー疑いなので、ここもアレルギーか?」と考えてしまうのはこの後うまくいかない原因になります。

たしかに左前肢の肘付近の痒みは顔と同じく「アレルギーを疑う」でいいと思うのですが、右前肢の手首の病変部で違和感を感じました。

もちろんアレルギーで手首の痒みが認められることもあるのですが、潰瘍化するほどの痒みは通常認められません。

しかも左前肢の手首には認められない・・・・・・・

ここで候補にあがるのは「心因性」です。

飼主さまからの話や、診察室での行動で心因性を疑うことはなかったのですが、診た目の特徴で心因性を候補にあげました。

続いて、腹部です。

腹部もアレルギー性皮膚炎が認められる部位のためアレルギーも考えなければいけないのは事実ですが、その前にこの病変であれば「細菌性皮膚炎(膿皮症)」を考えます。

アレレギーは関係していない・・・とはいえませんが、他の病変部との絡みで「アレルギーの関連した・・・」なんて考えてしまうと躓く原因になってしまうため、まずは細菌性皮膚炎として治療方針を組み立てます。

実施した検査は

 〇一般皮膚検査・・・ニキビダニ陰性、カイセン陰性、ブドウ球菌+、マラセチア+
 〇一般血液検査・・・異常なし

この2点は当日検査結果がでました。

 〇甲状腺検査・・・正常値
 〇特異的IgE検査・・・環境アレルゲンに対するIgE上昇あり
 〇細菌培養&感受性検査・・・一部抗生物質に耐性あり

この3点は検査センターに依頼したため、後日検査結果がでました。

当日に飼主さまにお伝えしたことは、

 〇顔、四肢の痒みはアレルギー性皮膚炎を疑う。その中でもとくにアトピー>食物アレルギー
 〇右の手首の約1センチの病変部だけはアレルギーではなく、心因性を疑う
 〇腹部は細菌性皮膚炎

以上のことから、もし想定の範囲内であれば・・・ですが、まずは抗生物質で腹部の湿疹を治療します。しかし効果のある抗生物質を服用すべきですので、感受性検査の結果をみて投薬開始としましょう。ただし抗生物質では腹部の湿疹とそれに関する痒みの改善はありますが、その他特に顔や四肢の病変部は細菌感染ではないため、全体的な痒みの改善は期待できません。腹部の湿疹が治り次第ステロイドを併用することで全体的な痒みの改善が認められるでしょう。そして最後に残るのが右の手首、ここだけは細菌感染でもアレルギーでもないので、初期の治療にはまったく反応せず最後まで残ります。残ったことを確認して心因性に対するアプローチを併用していきしましょう。心因性に対する内服治療もいくつか選択できるので、1種類で改善なくても2種類目、3種類目・・・と変えていきます。

・・・と思いますが、まだ検査結果が出揃っていないため、あくまで最初の予測です。

とお伝えしました。

そして検査結果が出揃い、診断は犬アトピー性皮膚炎、耐性菌による細菌性皮膚炎と診断しました。

右手首の心因性疑いですが、これは検査がないため治療結果で考えていきます。

治療は初診時の予定通り、スタートは抗生物質&抗ヒスタミン剤の内服、外用療法を開始しました。

2週間で腹部の湿疹が消失したため、3週目からステロイドの内服を開始。

治療開始から約5週間後、やはり手首のみまったく改善が認められないため心因性に対する内服治療を開始。

心因性に対する治療では1種類目で改善が認められず、むしろ悪化が疑われたため2種類目に切り替えました。

右手首は1種類目ではまったく改善しませんでしたが、2種類目に切り替えたところわずか1週間で潰瘍がなくなり、被毛が再生しました。

以上の治療経過から右手首はやはり「心因性」と判定できると考えました。

実際はステロイドの使用量を工夫したり、ステロイドにより湿疹がわずかに再発したため休薬期間を設けたり・・・すこしずつ変化をくわえています。

そこは状況に応じて、まさに診極めとテクニックかな?と思います。

今回は「診断名をしっかりつけて治療に望む」でしたが、医療は診断名がすべてではありません。

診断まで複数のステップを踏み、時間がかかる場合は診断名をつけるまえに治療開始しなければいけないこともありますし、典型的な検査結果がそろわず教科書的な枠組みに当てはまらないこともめずらしくありません。

そういった場合でも治療結果をだすのも医療ですから、「診断名が一部不確定」で治療方針を組み立てる力も重要です。

次回は「一部診断名不確定」でも治療方針は立てて、結果も出す!というテーマで紹介します。

※一部わかりにくい部分があるかもしれないため、後日見直しながら書き直します。

投稿者:四季の森どうぶつクリニック

【チャイクレの皮膚科専門外来】2種類の皮膚病の診極め

2014.03.02

こんにちは、院長の平川です。

今日の皮膚科症例報告は、少し珍しいタイプの皮膚病です。

【症例】

 チャイニーズ・クレステッドドッグ 1歳8カ月

【過去の病歴】

 〇生後1歳の冬から腰のあたりに痒みを伴う皮膚病
 〇春過ぎから手首を舐める、目・口・鼻の赤み・痒み
 〇徐々に悪化、全身に拡大し現在が最も悪い状態
 〇近医にて治療継続しているが、症状の改善が認められない

では、初診時の状態を見てみましょう。

まずは顔の正面です。

続いて、顔の左側から。

同じく左眼。

同じく、左の口唇の拡大です。

続いて、右前肢。

同じく右前肢の手首の拡大です。

続いて、左前肢です。

同じく左前肢の前腕~肘に近い部分の拡大です。

この部位は舐めすぎていることで、被毛ほぼなくなっています。

続いて、腹部。

同じく、腹部~右内股の拡大です。

掲載はしていませんが、右の鼻・口唇も同様に赤み・痒みがあります。

また両耳、肛門周囲の赤み・痒みもあります。

上記の病変部に共通するのは、全て「痒い」ということです。

ですが、この上記の写真の中で1つだけ違う病気が含まれています。

ほぼ左右対称に見えて・・・たった1カ所だけ痒みの原因が異なるものが含まれています。

この違いを初診時に診極めなければ迷走の原因になります。

では、3カ月半後の状態と比較してみましょう。


※画像をクリックすると拡大できます。


※画像をクリックすると拡大できます。


※画像をクリックすると拡大できます。


※画像をクリックすると拡大できます。


※画像をクリックすると拡大できます。


※画像をクリックすると拡大できます。

ほぼ綺麗に改善しました。

初診時に問診をとり、簡単な顕微鏡検査のあと、

 ・おそらくアレルギー性皮膚炎(アトピー&食物の可能性)が基礎疾患にある
 ・また部分的に感染症が認められる
 ・左右対称に見えますが、1か所だけ原因が異なるものがあるため、そこの治療だけは最初から行わず最後に加えましょう

と伝えました。

服用する薬を1回変更するなどの工夫はありましたが、ほぼスムーズに改善したと思います。

全身性の皮膚疾患を診るときに「分かり易い原因で全てを判断しない」ことが重要ですね。


四季の森どうぶつクリニック
獣医師 平川将人

投稿者:四季の森どうぶつクリニック

【犬の皮膚科専門外来】シェルティの慢性皮膚炎の治療

2014.01.11

2014年 謹賀新年

それでは、今年最初の症例報告です。

前回紹介したシェルティと同じ犬種ですが、同じ時期に来院された別のシェルティの慢性皮膚炎の治療症例を紹介します。

【症例】

7歳 シェルティ 女の子

【病歴】

 〇3歳のころから背中に痒みと痂皮・脱毛を伴う皮膚病で治療を継続している
 〇初回は抗生物質、抗ヒスタミン剤、ステロイド、抗真菌剤で治癒したが、2年前からは少しずつ悪化して今に至る
 〇最近は痒みが強く、よく眠れない

それでは症例をみてみましょう。

病変はまず左右の口唇の脱毛と痒みから。

若干わかりにくいかもしれませんが、口唇周囲に炎症・脱毛が認められます。

続いて背中全体です。

本来であれば立派な被毛で地肌が見えることはないのですが、脱毛が多く地肌が見えています。

この背中を拡大してみてみましょう。

では、続いて腹部です。

この腹部を拡大してみてみましょう。

続いて、四肢端の病変ですが、四肢すべてに同様の病変が認められたため、右前肢のみ掲載します。

それではこの指間を広げてみてみましょう。

※クリックするこどで拡大できます。

その他、両耳の外耳炎も併発しており、ほぼ全身に強い皮膚炎、痒みが認められました。

それでは、この状態から2カ月半後と比較してみましょう。

まずは右口唇から。

※クリックすると大きくなります。

ほぼ100%に近い毛並みまで回復したと思われます。

では拡大してみていきましょう。

※クリックすると拡大できます。

同じく背中の拡大です。

被毛をかき分けても綺麗で密な被毛が十分に回復してきました。

続いて、腹部です。

※クリックすると拡大してみることができます。

上記で拡大した病変部と同じ部位を比較してみましょう。


※クリックすると拡大して見ることができます。


※クリックすると拡大してみることができます。

最期に、右前肢端です。

同じく指の間をみてみましょう。

意外と治療が難しいのがこの指の間の皮膚炎かもしれませんね。

全身でもほぼ痒みがなく、そして元気にもなりました。

今回の症例の治療で大事なことは、この病変をみて病気のメカニズムを2つ考えなければいけないことです。

すべての病変部が同じ治療で改善するわけではありません。

そのことを初回にお伝えし、順に治療をステップアップしていくことで、スムーズな診療を行うことができます。

四季の森どうぶつクリニック
平川将人

 

投稿者:四季の森どうぶつクリニック

【犬の皮膚科専門外来】シェルティの慢性皮膚炎の治療 

2013.12.25

メリークリスマス♪

こんにちは、四季の森どうぶつクリニック獣医師平川です。

今年もいよいよカウントダウンとなり、年内の症例報告も今回でラストとなります。

今日は難治性皮膚疾患になりやすい犬種・・・とまではありませんが、時々来院がある『シェルティ』の症例を紹介します。

【症例】

 犬 シェルティ 9歳 去勢雄

【病歴】

 〇2年前から全身の痒みを伴う痂皮と脱毛
 〇この2年間で綺麗に改善したことがない

さて、初診時の状態です。

一見全体に被毛があり、遠目には皮膚病のように見えないのかもしれません。

部分的に被毛をかき分けて診てみましょう。

まずは右の側面、肩のあたりです。

この写真でも被毛が薄く、炎症を起こし赤くなっている皮膚が見えます。

さらに被毛をかき分け拡大してみます。

局所ではなく、全体的にこの皮膚炎が広がっています。

続いて、腰背部辺りの被毛をかき分けで診てみましょう。

このあたりを拡大してみます。

右肩のあたりと同様です。

続いて頚部をみてみましょう。

頚部の拡大をみてみます。

続いて、腹部です。

その拡大です。

このような皮膚疾患の場合、治療の効率化と全身病変部の評価のため、被毛のカットが非常に重要となります。

被毛をカットした背中を上からみてみます。

胸部~肩付近の拡大です。

さらに拡大してみます。

同じく上からですが、腰背部の拡大です。

つづいて、右大腿部の側面をやや尾側からみてみましょう。

さて、お気づきかもしれませんが、胸部~肩の付近と大腿部の側面は病変部が非常に似ていませんか?

そしてそれら2カ所に比較すると、腰背部の病変は若干異なっているように見えます。

それでは7週間の治療結果をみてみましょう。

まずは右肩付近の治療前と治療後の比較です。


※クリックすると拡大します。

同じくこの右側面の拡大です。


※クリックすると拡大します。

続いて、


※クリックすると拡大します。

この頚部を拡大してみましょう。


※クリックすると拡大します。

続いて、胸部背側の比較です。


※クリックすると拡大します。

続いて、右大腿部側面の比較です。


※クリックすると拡大します。

病変はほぼ消失し、痒みもありません。

現在治療の最終段階で終わっているわけではありませんが、今以上時間が経過するとシェルティの美しい被毛で完全に覆われ、皮膚がほとんどみえなくなるため、その直前で比較してみました。

あと1~2カ月もすれば完全に被毛が再生し、見違えるほど美しいシェルティになると思います。

毎回同じことですが、重要なのは初診時にこの改善までの道筋を描くことです。

確かに初診時に実施した検査結果が一通り出揃うまでは、「もしかしたら〇〇かも?」「もしかしたら△△△があるかも?」と考えることもありますが、初診時にあらゆるパターンを想定してこのゴール地点までの道筋を描きます。

ときに「この皮膚病は先が読めない」と感じることもありますが、ほとんどの症例は初診時に3ヶ月後までの先を読むことが可能です。

今回の症例も初診時に複数の検査を行いましたが、初診時の想定通りの治療結果をなりました。

幸い大きな基礎疾患がなかったため、2年間治らなかった皮膚病が7週間でここまで改善しました。

 

投稿者:四季の森どうぶつクリニック

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