2018.01.22
犬の皮膚病のみを行う皮膚科専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
今回はペキニーズの症例です。
【症例】
ペキニーズ 女の子(避妊未) 6歳8ヵ月
【経過】
〇約1歳頃からずっと(良くなったり悪くなったり繰り返し)
〇全身の痒み
それでは初診時の状態をみてみましょう。
頚部
胸部とその拡大
背中とその拡大
わかりにくいため、毛をカットしたあとの状態もみてみましょう。
それでは初診時から約2か月後の状態と比較してみましょう。
毛刈り前との比較写真、毛刈り後との比較写真の両方を使います。
※写真をクリックすると大きくすることができます。
痒みはほとんどなく、湿疹・フケもありません。
いつも紹介している症例に比べると重症度が軽めですが、飼主さまは「はじめてよくなった」と評価していただけました。
なお、今回の症例の診断名は細菌による膿皮症です。
そのため抗生物質が必要になるのですが、問題は抗生物質をやめた後に再発させないことです。
今回は抗生物質をやめて約1か月後の状態で撮影しています。
抗生物質をやめても再発していないのがポイントですが、今回の治療で「再発防止」に役に立ったのはサプリメント「スキンケアECプラス」です。
抗生物質は膿皮症を治しますが、膿皮症の原因を治すことはできません。
このスキンケアECプラスは膿皮症の原因にアプローチしていますので、抗生物質をやめたあとの再発防止に役立ちます。
今回の症例ではスキンケア&サプリメントが非常に役に立つタイプです。
当院のオンラインショップでお買い求めいただけます。
投稿者:
2017.09.14
犬の皮膚病治療におけるスキンケアに力をいれている皮膚病治療専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
当院では以前からスキンケアに力をいれていますが、スキンケア単独で皮膚病が治るとは思っていません。
むしろスキンケアで治る皮膚病はほんのわずかな軽度なものだけであり、スキンケアに拘りすぎてはいけないとすら思っています。
ただ、スキンケアがさほど重要ではないという意味ではなく、スキンケアがなければ絶対にうまく行かない皮膚病があるため、そこを診間違わないことが重要と考えています。
今回紹介するのはそんな「スキンケアがなければ絶対にうまくいかない」という症例です。
【症例】
犬 ミックス(柴×キャバリア)
【経過】
※後日記載します。
では、初診時の状態をみてみましょう。
まずは、顔から。
続いて、頚部と前胸部。
続いて、右前肢。
続いて、胸部。
続いて、腹部~内股。
続いて、右後肢。
続いて、胸の側面~肩とその拡大。
こういった症例は非常に多いですね。
当院ではこういった脂漏症の症例報告を過去に数え切れないほど紹介してきましたが、こういった症例では「院内薬浴」が非常に効果的です。
ただ、今回は飼主さまが「自宅でやります!」というので院内薬浴は行わず、自宅でがんばってもらうことにしました。
それでは初診時から約2ヵ月後くらいの状態を紹介します。
随分と改善したのがわかります。
もちろん使用したのは当院のオリジナルスキンケア商品、MedicareクレンジングオイルとMedicareシャンプーです。
※当然ですが、投薬治療も併用しています。
しかし全ての部位で十分な改善があったかといえばそうではなく、脂漏の症状が残っている部位がありました。
それは一番脂漏が重度であった胸部です。
ある程度時間が経過したにも関わらず・・・
この状態でした。
もちろん想定外ではなく、2回目の診察時には「十分にシャンプーができていない→このままでは症状が残る」ということが予測できていたので、再診のたびに飼主さまに「十分なシャンプー療法ができていません。院内薬浴を受けませんか?もっとよくなると思います。」と提案してきましたが、実施にはいたりませんでした。
しかしこのままでは改善が止まってしまうため、一定の改善があった時点で改めて「もっとよくなります。僕を信じて受けてください。」と説得し、院内薬浴を受けていただくことになりました。
その初回の薬浴が2週間前で、そして本日がその薬浴から2週間後の再診でした。
強い脂漏が残っていた胸部は・・・
非常に綺麗になりました!
拡大してみましょう。
色(皮膚炎)も改善し、皮膚もやわらかく、フケも皮脂もほとんどありません。
飼主さまからも、「随分よくなりました。元気になって、若返ったみたい。フケもへって掃除も楽になりました。」と喜んでいただけました。
今回の症例のように、スキンケアは非常に重要です。
ただし、スキンケアが正しく十分な技術で実施されれば・・・でもあります。
おそらく自宅でのスキンケアの達成レベル・完成度は高くなく、やはり熟練の技術がなければ十分な結果を出すのは難しいということです。
なお今回の症例には抗生物質を処方していません。
抗生物質を使わずに治したという意味ではなく、「このタイプの皮膚疾患に抗生物質は不要」という意味です。
また、スキンケアだけで治るわけではありません。
必ず投薬治療が適切に行われていなければ、これだけの改善は不可能でしょう。
余談ですが、初診時には静岡のあん動物病院の大石先生が見学にきていたので、初診時の治療プランの組み立て方、病変の見方について解説いたしました。
そしてその後の治療の詳細について治療内容と写真で情報を共有しています。
それではまとめです。
今回の症例の初診時に重要なことは、
・初診時に治療プランを組み立てることができること
・抗生物質が不要であることがわかること
・スキンケアだけで改善できるものではないが、スキンケアが無ければ改善できないことがわかること
です。
そしてもっと重要なこととしては、再診時に
「スキンケアが不十分であることが判断できること」
「スキンケアが不十分であることを飼主さまに伝えることができ、改善できることを実感させられること」
ですね。
当院では皮膚科のない個人動物病院向けにスキンケア商品・サプリメントの提供を主とした業務提携を行っています。
興味のある先生は問い合わせフォームからご連絡ください。
投稿者:
2017.03.25
愛知・名古屋で犬の皮膚病治療のみを行う動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
春になりましたが、まだ少し寒さを感じます。
一時期ストレスから口内炎・吹き出物が多発し、寝不足も重なって絶不調でしたが、今はいいスパイラルに入り絶好調です♪
今日紹介するのは脱毛症のわんちゃんです。
普段は「痒みを伴う皮膚病」を診る機会が圧倒的なのですが、今回は「痒みを伴わない脱毛症」です。
【症例】
犬 シェルティ
それでは初診時の状態をみてみましょう。
まずは全体像です。
綺麗な毛並みで、一見脱毛症があるようにはみえません。
今回の病変は1箇所だけ・・・
この左耳の裏側の脱毛です。
脱毛している部分と、正常な被毛がある境の部位を拡大してみましょう。
白くめくれたようなフケが大量に付着しています。
診断はここで決まります。
初診時から約2ヵ月後の状態と比較してみましょう。
※写真をクリックすると大きくすることができます。
非常に綺麗な毛並みが再生しました。
このタイプは「完治」といえます。
原因は非常にシンプルで、「ステロイド外用薬の塗りすぎによる副作用」です。
当院としては「脱ステロイド」を正義の御旗のように謳うことはなく、積極的にステロイドを使う方なのですが、「使いこなすこと」がとても大事だと考えています。
ステロイドを使いこなすというのは、ステロイドを使っていいシーンと使わない方がいいシーンの診極めであり、使うべきときにしっかりと使う、使ってはいけないシーンを間違えないことです。
そして「使いすぎに早く気づくこと」、ですね。
今回のわんちゃんがステロイドを使うキッカケになった皮膚病をみていないため、「使うべきだったのかどうか?」に関してはわからないのですが、使いすぎに気づかなかったのが原因だと思います。
投稿者:
2016.12.03
名古屋・愛知で犬の皮膚病治療を専門に行う動物病院、四季の森どうぶつクリニックの平川です。
膿皮症、とても多い病気ですね。
シンプルなんですが、とても治りにくいケースも多々あり、「膿皮症が治らない」という理由で当院を受診される方も多いです。
それらのわんちゃんの多くが「診断は間違っていない」・・・でも、治ってないという状態です。
治らないには治らないなりの理由があり、膿皮症になるにはなるなりの理由があります。
そこを追求すれば、膿皮症のほとんとがコントロール可能になります。
前回そんな「膿皮症が治らない」として甲状腺機能低下症の症例報告を行いました。
今回もその甲状腺機能低下症の続きです。
【症例】
MIX 6歳1ヵ月 男の子(去勢済み)
【経過】
〇1~2年前から発症
〇過去に2件の動物病院を受診し、抗生物質とステロイドを処方され、一時的に改善したが再発
〇夏前からさらに悪化
それでは、初診時の状態です。
つづいて、頚部です。
同じく頚部の拡大です。
つづいて、前胸部です。
同じく左の脇です。
すぐとなりの肘の内側です。
つづいて、腹部~内股です。
同じく左の内股です。
この初診時から2ヶ月後の状態を比較してみましょう。
※画像をクリックすると大きくすることができます。
非常に綺麗になりました。
湿疹がない、痒みがないだけでなく、フワフワ&サラサラに復活です。
そしてとても元気になっています。
甲状腺機能低下症は非常に有名ですが、診断しにくいいくつかの要因があります。
〇飼主さまがほぼ気づかない
動物病院に来院されるにはそれなりの理由があると思うのですが、甲状腺機能低下症の場合は病気に直結する症状で来院されることがあまりありません。
わかりやすい例でいうと、糖尿病であれば「よく食べるのにやせる。よく水をのむ、オシッコも多い」、心臓疾患であれば「咳をする。呼吸がおかしい」、膀胱炎であれば「血尿」といったような関連性ですが、甲状腺機能低下症の場合はそういった主訴が多くないのです。
〇特徴的な症状(所見)がない、または顕著な特徴が出ないことが多い
教科書的には脱毛、表情、脂漏・・・といった特徴的な症状を書いているのですが、教科書にのるような脱毛になっている甲状腺機能低下症のわんちゃんがどれだけいるのか?と考えるとほんの一部です。
また表情についても、特徴的な表情をするのはほんのわずか、脂漏も甲状腺機能低下症以外でも多くみとめられるため、直結するような症状ではありません。
〇検査結果が必ずしも正確とは限らない
ユーサイロイドシックと呼ばれる状態があり、「本当は甲状腺は正常なのに、異常値がでる」というのが頻繁に起こります。
評価に悩む症例もなくはありません。
〇皮膚病の中で甲状腺機能低下症は多いわけではない
今回の連続報告はちょうど同じ週に来院されたように、当院では頻繁に診断する機会があるのですが、一般診療の中ではたまにみるくらいだと思いますので、「皮膚病があるから甲状腺検査しましょう」ではないと思います。
〇検査が高い
病気が少ないとしても、検査が安ければ、それこそ100円で検査できるならすべてのわんちゃんに行えば発見が遅れることも少なくなるのですが、安くない・・・いやむしろ高いほうの検査です。
検査に踏み切るには踏み切るなりの理由がなければ実施しづらいというのはなくはありません。
とはいっても甲状腺機能低下症があって皮膚病になっている場合、甲状腺を避けて改善はありませんので、どこかでラインを引いて実施しておきたい検査です。
具体的には、
毛並みが悪い
脂漏がある
皮膚病の治りが悪い、再発が多い
・・・ですが、難しいですね。
たとえば「毛並みの悪さ」、どう評価するのか?
毛の質はわんちゃんによって違いますし、そのわんちゃんの昔の状態もわかりません。
毛の数も100→10になれば判りやすいのですが、100が70や50くらいのこともあるので脱毛といいきれないことも多々あります。
ということで「普段からよく診る」につきると思います。
数多く診ていれば、病気のわんちゃんがきたときに「おかしい」という違和感を感じます。
治りの悪いさもどうようで、「この治療だったら治るべきなのになぜ治らない?」という違和感が検査のタイミングだと思います。
それでも病気は文字では表せないのが現実ですね。
まとめようにもまとまらない、「教科書では治らない」ですね。
投稿者:
2016.09.16
こんにちは、四季の森どうぶつクリニックの平川です。
四六時中お話している「初診時の診極め」ですが、実は現代医学で重要視される「根拠」とは正反対にあるものです。
日常の診療でよくあるパターンですが、診た瞬間「きっとこうだろうな」という経験からの判断に対して、初診時には検査結果が出揃っていないこともあるため客観的な根拠がないこともあります。。
もちろん初診時に顕微鏡検査や一部の血液検査、画像診断などでの総合評価が加わっての判断のため、後日出揃う検査結果をみて想定外の「こんな結果がでるとは・・・」ということはほぼ皆無です。
しかし時に出揃った検査結果が予想通りではなく、診断名に悩むこともあります。
それは「診極め」に問題がある・・・という意味ではなく、「診極め」と「根拠となるべき検査結果」がリンクしないときです。
今日はそんな症例報告です。
【症例】
9歳 紀州犬 男の子(去勢済み)
【病歴】
〇3ヶ月前からお腹の脱毛、背中の脱毛と広がってきた
初診時の状態、症状は背中のみになっています。
診た目の診断面は「感染症」、この判断で間違いではないですが、ポイントは基礎疾患の評価です。
高齢期になり、フケを伴う円形脱毛症が複数・・・・・疑うべきは「内分泌疾患」です。
初診時の「診極め」は
〇感染症は内服&スキンケアで改善可能
〇基礎疾患に内分泌疾患として候補は2疾患、甲状腺疾患または副腎疾患のどちらかがあるはず!
です。
検査結果は・・・・
〇一般&生化学検査は甲状腺疾患・副腎疾患の両方を示唆
〇エコーは副腎疾患の可能性を残す
〇ホルモン測定では、副腎検査が正常値、甲状腺検査のみの異常値
副腎疾患の検査精度はあまり高くなく、正直なところ検査結果より自分の判断が正しいことの方が圧倒的に多いのですが・・・
実際の治療レベルとしては、
〇甲状腺疾患の治療薬は、万が一副腎疾患だったとしても副作用はまずないだろう
〇副腎疾患の治療薬は、万が一副腎疾患でなければ使うべきではないし、副作用が起きたら大変
のため、自分の判断は一旦保留としました。
ということで、初期治療は「まず甲状腺疾患の投薬治療を試験的に開始、ただし副腎疾患であれば改善しないためあくまで試験的治療である」としました。
しかし初診時から6ヶ月後、感染は完全に治ったにもかかわらず、被毛の再生は若干あるものの、十分とはいえませんでした。
そこで飼主さまとよくよく相談して、検査結果上では副腎疾患を確定する結果はなかったのですが、投薬治療を副腎疾患へシフトすることにしました。
それから2ヶ月・・・・
※クリックすると拡大することができます。
フワフワにもどってきました!
この時代の医療は難しいですね。
個人的に重要視している経験は根拠にならず、必要な根拠は検査結果(データ)です。
しかし検査の正確さは100%に遠く及びません。
そのため最後の最後の判断は検査結果に頼りきらずに、たとえ検査結果がそろわなくても、検査結果を否定する医療であっても経験を優先すべきと日々感じています。
時代はAI(人工知能)にシフトする方向でもう変わることはありませんが、AIがこの難問をどうクリアするのか見物ですね♪
投稿者:
2016.08.05
こんにちは、四季の森どうぶつクリニックの平川です。
先日症例報告したばかりですが、スタッフが症例報告の大部分をフォローしてくれるので、症例報告がしやすくなっています♪
僕は文字を打つだけなので楽・・・・・・・のような、写真が勝手にこのブログにアップされているため「やらざるを得ない」状況になっているだけなのか・・・・僕にもわかりません(笑)
今日はちょっとかわった症例報告です。
普段から「診極め」が肝心で、診断・治療法は「診た瞬間で決まる」とお話していますが、今回紹介する症例はちょっと異なりました。
診た瞬間に考えたことは「原因によっては厳しいのかな・・・・」です。
【症例】
ペキニーズ 8歳 去勢オス
【経過】
〇5~6年前から皮膚トラブル
〇この2ヶ月で急激に悪化
まずは初診時の状態をみてみましょう。
腰のフラつきが強く、うまく立てないためフセの状態での写真をメインにしています。
皮膚コンディションが非常にわるかったため、全身の毛のカットを行いました。
「診たことない」というタイプではないのですが、たま~にしか診ないタイプです。
五感のなかの「嗅覚」で診断につながるタイプでもあります。
では、2ヵ月後の状態と比較してみてみましょう。
※写真をクリックすると大きくすることができます。
まだ治療途中ですが、かなりよくなったと思います。
心配していたレアな病気がなければ、ここから悪化して戻ることはまずないと思いますが、確定診断にはいたっていません。
今回は普段なかなか診ることがないような皮膚疾患も考え、初診時にそういった難しい皮膚疾患・検査の説明も行いました。
その中で「初回の検査では細かい追求はしない」という飼主さまの希望で、「診断名は中途半端のままでも、レアな病気がなければ、うまくいけば改善するかも」で治療スタートとしました。
結果は見てのとおりで、うまくいっています。
ただ、診断名は中途半端なままです。
以外かもしれませんが、病気に正確な名前をつけることと、的確な治療方針をたてることは別の次元・・・・・ということはめずらしくありません。
もちろん理想は揺ぎ無い正しい診断名があった方がいいのですけど、つけられないことも、診断名があてはまらないことだってあります。
さまざまな事情で検査ができないことだってあるため、必ずしも教科書的な診療がいつでもどこでも通用するわけではありません。
そのため名前をつけるまえに治療法を導き出さなければいけないことだってあります。
今回はそういった「白・黒はっきりつかないグレーのままでも結果をだす」という症例でした。
今回も今まで同様に、初診時に治療方針はほぼ決定して望んでいます。
大切なのは初診時に検査結果を想定して「3ヵ月後までの治療の道を描けるか?」ですね。
投稿者:
2014.09.19
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック院長平川です。
先日知り合いの先生から「掲載されている症例報告の詳細について・・・特に診断名を!」と聞かれたので、過去に紹介した症例を用いて皮膚科診療におけるアプローチについて書いてみます。
今回解説する症例は、随分前に紹介したチャイニーズ・クレステッドドッグの皮膚病です。
治療前、治療後は前の記事を参考にしていただきたいのですが、今回は初診時にどこまで診極めることができるか?をメインに解説していきます。
まずは来院時のカルテ情報として、1歳8ヶ月、女の子(未避妊)のチャイクレです。
これが10歳こえてはじめて皮膚疾患になったトイプードルであれば内分泌疾患を疑いますし、2歳の柴犬ならアレルギーを疑うのですが、今回は「若いチャイクレ」という条件でそう多くないパターンですから、犬種として・・・と考えるにはまだ十分な情報とはいえません。
さて、メインの症状は痒み、背中以外ほぼ痒みがあります。
主に手首、お腹、目、口、鼻、耳です。
初診時の状態を病変ごとにみてみましょう。
目、鼻横、口唇に左右対称性の皮膚炎が認められます。
まず疑うべきはアレルギー性疾患、年齢や統計学的にはアトピー性皮膚炎>食物アレルギーと考えました。
続いて、前肢をみてみましょう。
右前肢全体、
腕全体的にかむ症状が認められますが、もっとも診た目で重症なのが手根(手首)のやや内側部分です。
続いて、左前肢をみてみましょう。
同じく左前肢の肘のあたりです。
アレルギー性皮膚炎の症状の一つに四肢の関節の痒みがあるため、これもアレルギーを疑う所見・・・なのですが、
しかし、ここでワンポイント!
この病変で「顔がアレルギー疑いなので、ここもアレルギーか?」と考えてしまうのはこの後うまくいかない原因になります。
たしかに左前肢の肘付近の痒みは顔と同じく「アレルギーを疑う」でいいと思うのですが、右前肢の手首の病変部で違和感を感じました。
もちろんアレルギーで手首の痒みが認められることもあるのですが、潰瘍化するほどの痒みは通常認められません。
しかも左前肢の手首には認められない・・・・・・・
ここで候補にあがるのは「心因性」です。
飼主さまからの話や、診察室での行動で心因性を疑うことはなかったのですが、診た目の特徴で心因性を候補にあげました。
続いて、腹部です。
腹部もアレルギー性皮膚炎が認められる部位のためアレルギーも考えなければいけないのは事実ですが、その前にこの病変であれば「細菌性皮膚炎(膿皮症)」を考えます。
アレレギーは関係していない・・・とはいえませんが、他の病変部との絡みで「アレルギーの関連した・・・」なんて考えてしまうと躓く原因になってしまうため、まずは細菌性皮膚炎として治療方針を組み立てます。
実施した検査は
〇一般皮膚検査・・・ニキビダニ陰性、カイセン陰性、ブドウ球菌+、マラセチア+
〇一般血液検査・・・異常なし
この2点は当日検査結果がでました。
〇甲状腺検査・・・正常値
〇特異的IgE検査・・・環境アレルゲンに対するIgE上昇あり
〇細菌培養&感受性検査・・・一部抗生物質に耐性あり
この3点は検査センターに依頼したため、後日検査結果がでました。
当日に飼主さまにお伝えしたことは、
〇顔、四肢の痒みはアレルギー性皮膚炎を疑う。その中でもとくにアトピー>食物アレルギー
〇右の手首の約1センチの病変部だけはアレルギーではなく、心因性を疑う
〇腹部は細菌性皮膚炎
以上のことから、もし想定の範囲内であれば・・・ですが、まずは抗生物質で腹部の湿疹を治療します。しかし効果のある抗生物質を服用すべきですので、感受性検査の結果をみて投薬開始としましょう。ただし抗生物質では腹部の湿疹とそれに関する痒みの改善はありますが、その他特に顔や四肢の病変部は細菌感染ではないため、全体的な痒みの改善は期待できません。腹部の湿疹が治り次第ステロイドを併用することで全体的な痒みの改善が認められるでしょう。そして最後に残るのが右の手首、ここだけは細菌感染でもアレルギーでもないので、初期の治療にはまったく反応せず最後まで残ります。残ったことを確認して心因性に対するアプローチを併用していきしましょう。心因性に対する内服治療もいくつか選択できるので、1種類で改善なくても2種類目、3種類目・・・と変えていきます。
・・・と思いますが、まだ検査結果が出揃っていないため、あくまで最初の予測です。
とお伝えしました。
そして検査結果が出揃い、診断は犬アトピー性皮膚炎、耐性菌による細菌性皮膚炎と診断しました。
右手首の心因性疑いですが、これは検査がないため治療結果で考えていきます。
治療は初診時の予定通り、スタートは抗生物質&抗ヒスタミン剤の内服、外用療法を開始しました。
2週間で腹部の湿疹が消失したため、3週目からステロイドの内服を開始。
治療開始から約5週間後、やはり手首のみまったく改善が認められないため心因性に対する内服治療を開始。
心因性に対する治療では1種類目で改善が認められず、むしろ悪化が疑われたため2種類目に切り替えました。
右手首は1種類目ではまったく改善しませんでしたが、2種類目に切り替えたところわずか1週間で潰瘍がなくなり、被毛が再生しました。
以上の治療経過から右手首はやはり「心因性」と判定できると考えました。
実際はステロイドの使用量を工夫したり、ステロイドにより湿疹がわずかに再発したため休薬期間を設けたり・・・すこしずつ変化をくわえています。
そこは状況に応じて、まさに診極めとテクニックかな?と思います。
今回は「診断名をしっかりつけて治療に望む」でしたが、医療は診断名がすべてではありません。
診断まで複数のステップを踏み、時間がかかる場合は診断名をつけるまえに治療開始しなければいけないこともありますし、典型的な検査結果がそろわず教科書的な枠組みに当てはまらないこともめずらしくありません。
そういった場合でも治療結果をだすのも医療ですから、「診断名が一部不確定」で治療方針を組み立てる力も重要です。
次回は「一部診断名不確定」でも治療方針は立てて、結果も出す!というテーマで紹介します。
※一部わかりにくい部分があるかもしれないため、後日見直しながら書き直します。
投稿者:
2014.03.02
こんにちは、院長の平川です。
今日の皮膚科症例報告は、少し珍しいタイプの皮膚病です。
【症例】
チャイニーズ・クレステッドドッグ 1歳8カ月
【過去の病歴】
〇生後1歳の冬から腰のあたりに痒みを伴う皮膚病
〇春過ぎから手首を舐める、目・口・鼻の赤み・痒み
〇徐々に悪化、全身に拡大し現在が最も悪い状態
〇近医にて治療継続しているが、症状の改善が認められない
では、初診時の状態を見てみましょう。
まずは顔の正面です。
続いて、顔の左側から。
同じく左眼。
同じく、左の口唇の拡大です。
続いて、右前肢。
同じく右前肢の手首の拡大です。
続いて、左前肢です。
同じく左前肢の前腕~肘に近い部分の拡大です。
この部位は舐めすぎていることで、被毛ほぼなくなっています。
続いて、腹部。
同じく、腹部~右内股の拡大です。
掲載はしていませんが、右の鼻・口唇も同様に赤み・痒みがあります。
また両耳、肛門周囲の赤み・痒みもあります。
上記の病変部に共通するのは、全て「痒い」ということです。
ですが、この上記の写真の中で1つだけ違う病気が含まれています。
ほぼ左右対称に見えて・・・たった1カ所だけ痒みの原因が異なるものが含まれています。
この違いを初診時に診極めなければ迷走の原因になります。
では、3カ月半後の状態と比較してみましょう。
ほぼ綺麗に改善しました。
初診時に問診をとり、簡単な顕微鏡検査のあと、
・おそらくアレルギー性皮膚炎(アトピー&食物の可能性)が基礎疾患にある
・また部分的に感染症が認められる
・左右対称に見えますが、1か所だけ原因が異なるものがあるため、そこの治療だけは最初から行わず最後に加えましょう
と伝えました。
服用する薬を1回変更するなどの工夫はありましたが、ほぼスムーズに改善したと思います。
全身性の皮膚疾患を診るときに「分かり易い原因で全てを判断しない」ことが重要ですね。
投稿者:
2014.01.11
2014年 謹賀新年
それでは、今年最初の症例報告です。
前回紹介したシェルティと同じ犬種ですが、同じ時期に来院された別のシェルティの慢性皮膚炎の治療症例を紹介します。
【症例】
7歳 シェルティ 女の子
【病歴】
〇3歳のころから背中に痒みと痂皮・脱毛を伴う皮膚病で治療を継続している
〇初回は抗生物質、抗ヒスタミン剤、ステロイド、抗真菌剤で治癒したが、2年前からは少しずつ悪化して今に至る
〇最近は痒みが強く、よく眠れない
それでは症例をみてみましょう。
病変はまず左右の口唇の脱毛と痒みから。
若干わかりにくいかもしれませんが、口唇周囲に炎症・脱毛が認められます。
続いて背中全体です。
本来であれば立派な被毛で地肌が見えることはないのですが、脱毛が多く地肌が見えています。
この背中を拡大してみてみましょう。
では、続いて腹部です。
この腹部を拡大してみてみましょう。
続いて、四肢端の病変ですが、四肢すべてに同様の病変が認められたため、右前肢のみ掲載します。
それではこの指間を広げてみてみましょう。
※クリックするこどで拡大できます。
その他、両耳の外耳炎も併発しており、ほぼ全身に強い皮膚炎、痒みが認められました。
それでは、この状態から2カ月半後と比較してみましょう。
まずは右口唇から。
※クリックすると大きくなります。
ほぼ100%に近い毛並みまで回復したと思われます。
では拡大してみていきましょう。
※クリックすると拡大できます。
同じく背中の拡大です。
被毛をかき分けても綺麗で密な被毛が十分に回復してきました。
続いて、腹部です。
※クリックすると拡大してみることができます。
上記で拡大した病変部と同じ部位を比較してみましょう。
最期に、右前肢端です。
同じく指の間をみてみましょう。
意外と治療が難しいのがこの指の間の皮膚炎かもしれませんね。
全身でもほぼ痒みがなく、そして元気にもなりました。
今回の症例の治療で大事なことは、この病変をみて病気のメカニズムを2つ考えなければいけないことです。
すべての病変部が同じ治療で改善するわけではありません。
そのことを初回にお伝えし、順に治療をステップアップしていくことで、スムーズな診療を行うことができます。
四季の森どうぶつクリニック
平川将人
投稿者:
2013.12.25
メリークリスマス♪
こんにちは、四季の森どうぶつクリニック獣医師平川です。
今年もいよいよカウントダウンとなり、年内の症例報告も今回でラストとなります。
今日は難治性皮膚疾患になりやすい犬種・・・とまではありませんが、時々来院がある『シェルティ』の症例を紹介します。
【症例】
犬 シェルティ 9歳 去勢雄
【病歴】
〇2年前から全身の痒みを伴う痂皮と脱毛
〇この2年間で綺麗に改善したことがない
さて、初診時の状態です。
一見全体に被毛があり、遠目には皮膚病のように見えないのかもしれません。
部分的に被毛をかき分けて診てみましょう。
まずは右の側面、肩のあたりです。
この写真でも被毛が薄く、炎症を起こし赤くなっている皮膚が見えます。
さらに被毛をかき分け拡大してみます。
局所ではなく、全体的にこの皮膚炎が広がっています。
続いて、腰背部辺りの被毛をかき分けで診てみましょう。
このあたりを拡大してみます。
右肩のあたりと同様です。
続いて頚部をみてみましょう。
頚部の拡大をみてみます。
続いて、腹部です。
その拡大です。
このような皮膚疾患の場合、治療の効率化と全身病変部の評価のため、被毛のカットが非常に重要となります。
被毛をカットした背中を上からみてみます。
胸部~肩付近の拡大です。
さらに拡大してみます。
同じく上からですが、腰背部の拡大です。
つづいて、右大腿部の側面をやや尾側からみてみましょう。
さて、お気づきかもしれませんが、胸部~肩の付近と大腿部の側面は病変部が非常に似ていませんか?
そしてそれら2カ所に比較すると、腰背部の病変は若干異なっているように見えます。
それでは7週間の治療結果をみてみましょう。
まずは右肩付近の治療前と治療後の比較です。
同じくこの右側面の拡大です。
続いて、
この頚部を拡大してみましょう。
続いて、胸部背側の比較です。
続いて、右大腿部側面の比較です。
病変はほぼ消失し、痒みもありません。
現在治療の最終段階で終わっているわけではありませんが、今以上時間が経過するとシェルティの美しい被毛で完全に覆われ、皮膚がほとんどみえなくなるため、その直前で比較してみました。
あと1~2カ月もすれば完全に被毛が再生し、見違えるほど美しいシェルティになると思います。
毎回同じことですが、重要なのは初診時にこの改善までの道筋を描くことです。
確かに初診時に実施した検査結果が一通り出揃うまでは、「もしかしたら〇〇かも?」「もしかしたら△△△があるかも?」と考えることもありますが、初診時にあらゆるパターンを想定してこのゴール地点までの道筋を描きます。
ときに「この皮膚病は先が読めない」と感じることもありますが、ほとんどの症例は初診時に3ヶ月後までの先を読むことが可能です。
今回の症例も初診時に複数の検査を行いましたが、初診時の想定通りの治療結果をなりました。
幸い大きな基礎疾患がなかったため、2年間治らなかった皮膚病が7週間でここまで改善しました。
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