2018.07.21
繰り返す膿皮症の根本的な治療に取り組んでいる皮膚科専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
皮膚病をみるときに重要なことの1つに「正常と比較する」というのがあります。
正常が分からなければ異常所見を異常と認識できず、アプローチが止まる(診落とす)原因になるため、この「正常を正確に把握する」というのはとても重要です。
しかし教科書に「正常」が明確に記載されていないため、自分を含めて多くの先生は「正常を知らない」で診ているといっても過言ではありません。
では現実として皮膚科の基準はどうなっているかというと、正常の代わりに教科書に掲載されている典型的病変が検査や治療アプローチを始める判断基準になっています。
ただ典型的な異常所見ではなくても「何かおかしい・・・けどどうおかしいかはわからない」と思うことは多々あるはずなんです。
この「何かおかしい」をスルーしてしまえばその先は何もなく終了なのですが、この「何かおかしい」をどうおかしいのか突き詰め、この「何かおかしい」を改善させることができれば医療技術は進化します。
当院では今の皮膚科の隠れた問題の一つ「正常の認識不足」にフォーカスして、「何かおかしい」を徹底的に追及して治療技術を高めています。
今回はそんな「教科書に掲載されていない異常所見にアプローチした症例」です。
【症例】
ボルゾイ 2歳 男の子
【経過】
〇平成29年夏から発症 (初診時の時点で発症から7カ月)
〇体幹部(背中・側面・腹部)の湿疹がよくならず、次から次に新しいのができる
それでは初診時の状態をみてみましょう。
※身体が大きすぎて全体がカメラに入りませんでした。
右胸部側面と、その拡大です。
右腹部側面と、その拡大~内股にかけてです。
続いて、右後足側面です。
続いて、左胸部側面とその拡大です。
同じく右胸部側面を部分的にカットしてみました。
続いて、左腹部側面の拡大(バリカンでカット済)です。
診断名としては赤い湿疹、細菌性の膿皮症で特別な皮膚病ではありません。
それでは初診時から3か月半後の状態と比較してみましょう。
※写真をクリックすると大きくすることができます。
お腹の赤い湿疹が完全に消失した点以外はわかりにくいかおしれませんが、獣医師であれば注目点がわかると思います。
皮膚の菲薄化や表皮剥離などの皮膚コンディション異常、毛並みの異常がすべて改善できています。
特に飼主さまは「毛並みがとてもよくなった」と大きな変化を実感していただけています。
表面上の診断名である膿皮症は抗生物質とスキンケアでよくなり、その後2カ月間抗生物質を服用せずとも1つも再発していません。
膿皮症を改善するだけなく、膿皮症が起きる(治りにくい)原因を治すことができた症例ともいえます。
今回はボルゾイということで、レアな犬種です。
簡単にいうと「ボルゾイの正常」がわかっていなければいけないところですが、ボルゾイはめったに診れないのでどこからどこまで異常といえるのかが判断しずらいです。
もちろん過去にたくさんのボルゾイをみていたとしても、そのボルゾイが正常とは限りません。
こういった状況で大事なのは経験値、過去の経験だけで異常所見を判断します。
今回は初診時に「教科書に掲載されていない皮膚コンディション異常あり」と判断し、皮膚組織学的検査を行いました。
もちろん病理の検査結果は予測通りで、既存の教科書で分類されたような明確な診断名はつかず、病理学的な検査所見のみとなりました。
が、ここは想定内でした。
この病理学的所見を元に、初診時の想定通りの治療を進めることにしました。
もちろん飼主さまには何がどうおかしくて、どうよくなるのかはあらかじめ伝えています。
そして3か月後、上記のように「想定通りの治療結果」がでました。
今回の皮膚科の説明です。
決して治療前・治療後の変化が大きい派手さはない皮膚病症例でしたが、その内容は医学的に興味深いものだったと思います。
1つめのポイントは、初診時に「膿皮症の治療」だけにとらわれず、隠れた問題点である「なぜ膿皮症になっているのか?」に注目しなければいけないことに気づくことです。
2つ目のポイントは一般的な顕微鏡・血液検査所見に異常がでないことは想定範囲内とし、病理組織学的検査の必要性を判断できることです。
3つ目のポイントは病理組織学的検査結果で、既存の診断枠(教科書レベル)で明確な診断名がでない可能性は想定範囲で、具体的にどんな所見が返ってくるか想定して病理組織学的検査に臨めていることです。
4つ目のポイントは病理学的診断結果で明確な診断名がでなくても「〇〇〇をすれば改善できる」と、事前に推測できていることです。
5つ目のポイントは4つ目に似ていますが、何がどうおかしくて、どう改善するか推測できていることです。
おまけとしては、ボルゾイをよく知らなくても何となく「おそらくこれは正常なボルゾイとはいえないだろうな」と捉えることができることですね。
当院ではこういった「教科書で説明できない」「既存の検査で診断できない」というレベルの皮膚科診療についての、提携している動物病院に向けたシークレットセミナーを開催しています。
ご希望の方はお問い合わせフォームからご連絡ください。
投稿者: