2017.03.04
「医療に万能薬はない」と考えて、さまざまなアプローチを行う皮膚病治療専門動物病院、四季の森どうぶつクリニックです。
インターネットの影響もあり、ご存知の方もいるとは思いますが、昨年「アポキル」というお薬が登場しました。
皮膚病治療の世界では、この新しいお薬であるアポキルのおかげで治療成績が向上しています。
そして発売から半年、予測どおり当院には「アポキルを使っているのによくならない」という初診の方が増えています。
しかし多くの場合は、アポキルが効く・効かないという簡単な問題ではなく、複数の要因を同時に診極めていないがためにおきていると考えています。
今日はそんな「そもそも・・・」という症例報告です。
【症例】
8歳 ウェストハイランド・ホワイト・テリア 男の子
【病歴】
〇2年前が初発
〇耳・内股・四肢端の痒み、慢性的で腹部は真っ黒になっている
〇アポキル2ヶ月投与したが、痒み悪化、色素沈着悪化、範囲拡大
それでは初診時の状態をみてみましょう。
耳や四肢端はたいした皮膚炎ではありませんでしたので、ここでは腹部のみ掲載します。
ウェスティといえば重度の皮膚病になりやすい犬種の1つで、しかも改善させにくいことで有名です。
この腹部が真っ黒になるのもウェスティではよくあるシーンです。
ですが今回はそんなウェスティにありがちな全身脱毛・傷・色素沈着の・・・・・・・・・ではありませんでした。
ウェスティでよくある顔・頚部にはほとんど病変はなく、わき・腕・背中などもまったく問題ありませんでした。
確かに四肢端もなめていますが、写真を撮るほどでもない程度です。
この色素沈着は腹部のみです。
答えはこの初診時の一瞬です。
そして初診時に処方したのは「2ヶ月服用して効果ないどころか悪化した」と聞いているアポキルと、もう一つのお薬、耳用の点耳薬の合計3つを処方しました。
もちろんこれだけで解決するとは考えていなかったのですが、飼主さまにもどのお薬がどう効いていくのかを実感していただきたかったので順番にアプローチする方法を提案しました。
「〇〇〇が隠れていると思いますが、スタートはアポキルと〇〇〇(もう一つの薬)の2種類でアプローチです。」
そして初診時から2週間後。
「見た目は随分とよくなった!」
でしたが、
「内股をなめる頻度はまったくかわらない」
ということでした。
もちろん想定範囲でしたので、初診時に選択した「アポキル、もう一つのお薬」に加えてあるサプリメントを加えて3種類で内股にアプローチすることにしました。
再度2週間後(初診時から4週間後)の状態をご覧ください。
随分とよくなりましたね!
ただ、内股をなめる動作は残っていますし、四肢端もよく舐めているということで、追加のお薬を処方することにしました。
もちろん初診時に伝えた「〇〇〇」への追加処方ですので、初診時の想定の範囲内です。
そこから2週間後(初診時から6週間後)です。
わずかな色素沈着がありますが、ほぼ綺麗といって問題ないレベルでしょう。
なめる動作も元々10とすると、残りは1~1.5というレベルまで減りました。
今回の治療では「最初からわかっていた治療内容を、あえて小出しにする」という方針でしたが、飼主さまにとっても、何がどう効果を示したか、とてもわかりやすい診療内容だったと思います。
ポイントは、
①悪くなった皮膚を改善するのに何が効果的だったのか?
⇒初診時の2つのお薬 アポキルともう1つのお薬
※ただし、舐める頻度はまったく変わらずだったため、痒みの原因は別のところにある。
②そもそもなぜ腹部を舐めるのか?根本的なアプローチは?
⇒初診時に伝えた「〇〇〇」が診断名で、根本的にはサプリメントと最後に処方したお薬が治療薬
③初診時に処方した2種類なく、後半の2種類のお薬のみであったら?
⇒徐々によるなるとは思いますが、倍以上の時間がかかったと思います。
ですね。
では、アポキルはどうだったのか?
当院でも初診時から処方したように、アポキルそのものが今回の治療に不適切だったとは思いません。
皮膚を改善させるための選択肢の一つとしては有効だったと考えています。
ただ、「アポキルでなんとかなる」とは思えない皮膚病で、原因が別にあることに気づくことが最も重要だったのだと思います。
根本的な疾患を診極めでいる上で、「アポキルを併用すると早く治る」と判断して処方するのがベストだったのでしょう。
以上ののことから、次の治療のプランは「アポキルから減らしていく」となります。
残るのはサプリメントを中心にした治療でしょう。
診療というのは飼主さまを満足させてこそで不適切なかもしれませんが、個人的には思い描いたとおりに進んだ診療でとても晴れやかです(笑)
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今回の症例に併用したサプリメント&スキンケア商品は、当院オンラインショップで取り扱いをしています。
お勧めは掻く・舐めるといった痒み治療のために開発したスターターセットです。
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今年は当院のスキンケア・サプリメントなどの共有や遠隔診療のパートナー病院を募集し、動物病院同士で新しくグループをつくりたいと考えています。
また、スキンケア・食事療法などさまざまな情報共有をすることで、皮膚病全体の治療成績を高める活動をする予定です。
その活動の一つは参加していただいた動物病院での院内セミナー開催です。
主なテーマは
・スキンケア
・膿皮症へのアプローチ
・正しい食事療法
・見落とされている皮膚疾患
などです。
このセミナーを受けていただければ当院の症例報告の内容のほとんどを理解できると思います。
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