2016.09.16
こんにちは、四季の森どうぶつクリニックの平川です。
四六時中お話している「初診時の診極め」ですが、実は現代医学で重要視される「根拠」とは正反対にあるものです。
日常の診療でよくあるパターンですが、診た瞬間「きっとこうだろうな」という経験からの判断に対して、初診時には検査結果が出揃っていないこともあるため客観的な根拠がないこともあります。。
もちろん初診時に顕微鏡検査や一部の血液検査、画像診断などでの総合評価が加わっての判断のため、後日出揃う検査結果をみて想定外の「こんな結果がでるとは・・・」ということはほぼ皆無です。
しかし時に出揃った検査結果が予想通りではなく、診断名に悩むこともあります。
それは「診極め」に問題がある・・・という意味ではなく、「診極め」と「根拠となるべき検査結果」がリンクしないときです。
今日はそんな症例報告です。
【症例】
9歳 紀州犬 男の子(去勢済み)
【病歴】
〇3ヶ月前からお腹の脱毛、背中の脱毛と広がってきた
初診時の状態、症状は背中のみになっています。
診た目の診断面は「感染症」、この判断で間違いではないですが、ポイントは基礎疾患の評価です。
高齢期になり、フケを伴う円形脱毛症が複数・・・・・疑うべきは「内分泌疾患」です。
初診時の「診極め」は
〇感染症は内服&スキンケアで改善可能
〇基礎疾患に内分泌疾患として候補は2疾患、甲状腺疾患または副腎疾患のどちらかがあるはず!
です。
検査結果は・・・・
〇一般&生化学検査は甲状腺疾患・副腎疾患の両方を示唆
〇エコーは副腎疾患の可能性を残す
〇ホルモン測定では、副腎検査が正常値、甲状腺検査のみの異常値
副腎疾患の検査精度はあまり高くなく、正直なところ検査結果より自分の判断が正しいことの方が圧倒的に多いのですが・・・
実際の治療レベルとしては、
〇甲状腺疾患の治療薬は、万が一副腎疾患だったとしても副作用はまずないだろう
〇副腎疾患の治療薬は、万が一副腎疾患でなければ使うべきではないし、副作用が起きたら大変
のため、自分の判断は一旦保留としました。
ということで、初期治療は「まず甲状腺疾患の投薬治療を試験的に開始、ただし副腎疾患であれば改善しないためあくまで試験的治療である」としました。
しかし初診時から6ヶ月後、感染は完全に治ったにもかかわらず、被毛の再生は若干あるものの、十分とはいえませんでした。
そこで飼主さまとよくよく相談して、検査結果上では副腎疾患を確定する結果はなかったのですが、投薬治療を副腎疾患へシフトすることにしました。
それから2ヶ月・・・・
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フワフワにもどってきました!
この時代の医療は難しいですね。
個人的に重要視している経験は根拠にならず、必要な根拠は検査結果(データ)です。
しかし検査の正確さは100%に遠く及びません。
そのため最後の最後の判断は検査結果に頼りきらずに、たとえ検査結果がそろわなくても、検査結果を否定する医療であっても経験を優先すべきと日々感じています。
時代はAI(人工知能)にシフトする方向でもう変わることはありませんが、AIがこの難問をどうクリアするのか見物ですね♪
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