2010.09.26
柴犬のアトピー性皮膚炎
【症例】
柴犬
【過去の病歴】
過去にも梅雨時期~秋にかけて皮膚病治療歴あり
冬は改善して、治療終了したが、春から痒みの再発
【来院時の状態】
痒みの部位:眼周囲、額、鼻周囲、口唇、指間
脱毛の部位:眼周囲、額、鼻周囲
【治療経過】
治療前 |
治療6週間後 |
【結果】
アレルギー検査(特異的IgE検査、リンパ球反応検査)、内分泌検査、各種皮膚検査から、「アトピー性皮膚炎」と診断しました。
治療6週間で、痒みは少なく、脱毛もほとんど改善しました。ステロイドを症状(痒み)の改善のためではなく、治療として使用したことにより早期に改善が認められました1例です。
【治療のポイント】
☆「痒み止め」だけのためではない、治療のための上手なステロイドの使用
☆適切な薬物療法
☆環境アレルゲン対策としての、スキンケアを実施
【コメント】
来院時、アトピー性皮膚炎で多く認められる「皮膚糸状菌症」の併発がありました。一般的にステロイドの使用は、免疫を抑制するため健常な症例にも皮膚糸状菌症の発症の原因になったり、皮膚糸状菌症の悪化を引き起こす危険性があります。そのため、今回の症例にステロイドを使用することは「皮膚糸状菌症の悪化」も考えられるため要注意ですが、アトピーのコントロールと糸状菌の治療を兼ねて必要と判断し使用しました。
糸状菌症の治療にステロイドが必要と解釈した理由は、糸状菌症がアトピー性皮膚炎に起因するものであり、アトピーの早期のコントロールが糸状菌症の治療に必要と考えられたためです。環境アレルゲンによるアトピー性皮膚炎では、環境アレルゲンが皮膚に炎症を起こし、炎症がバリア機能を低下させ、さらに環境アレルゲンが皮膚に侵入しやすくなり、常在菌や糸状菌の2次感染を引き起こし、さらに炎症が悪化・・・という悪循環が起きています。その悪循環を止めるために、2次感染治療のための薬物療法と、環境アレルゲン対策としてのスキンケア療法をしっかりと実施しつつ、皮膚バリア機能の低下の原因になっている「炎症」を少量のステロイドで抑えていくことが治療になると考えました。この際のステロイドの量は短期間で少量まで減量し、免疫が抑制され糸状菌症が悪化しないようにします。
理想的なステロイドの使い方になりますが、ステロイドにより痒みを早期から抑えつつ、ステロイドによる2次感染や糸状菌症の悪化も引き起こさず、アトピーにより低下した皮膚バリア機能も回復させることができれば「上手なステロイドテクニック」といえると思います。
ステロイドを痒み止めのためではなく、皮膚病の治療として使用することが大切です。
※ステロイドの使用量・・・週に2回 0.5mg/㎏
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