監修・執筆:四季の森どうぶつクリニック 院長 平川 将人
犬の皮膚病に特化した診療を行う獣医師。症状だけを診るのではなく、「なぜその子に皮膚病が起こるのか」を重視し、食事・体質・被毛・行動まで含めて一頭ずつ診療している。これまで数多くの犬の皮膚病と向き合ってきた経験をもとに、一頭一頭の体質や経過を重視した診療を行っている。(→院長紹介)
公開日:2026年8月26日 / 更新日:2026年8月26日
「検査では異常ありませんでした」。そう言われても、かゆみや脱毛が続いている犬は少なくありません。「異常がないなら、なぜ治らないの?」。これが、飼い主さまの大きな疑問です。
「異常がありませんでした」という検査結果を見ても、それで原因が否定されたとは考えません。むしろ、「検査では見えていない原因が残っている」と考えるところから診療を始めます。これまでの検査にも意味があります。見つかった異常を治療することも大切です。ただ、それだけでは「なぜ繰り返すのか」まで説明できないことがあります。皮膚に出ている症状は「結果」です。私が知りたいのはその先——「なぜ、皮膚が荒れてしまうのか」「なぜ、繰り返すのか」という、その子自身の体質や身体の状態です。生まれ持った体質そのものは、検査だけで数値化できるものではありません。しかし、それは皮膚や被毛、食事への反応、日常の行動パターンなどに表れてきます。当院では、その「表現」を診断材料として確認しています。
だから当院では、検査を「答え」ではなく「判断材料」として使います。これまでの検査結果、お薬への反応、日々の様子。それらを合わせて読み解くことで、数値に表れなかった原因が見えてくることがあります。
検査結果だけでは終わらせず、「なぜ治らないのか」を考える皮膚科診療
四季の森どうぶつクリニックは、犬の皮膚病に特化した診療を行っています。ほかの病院で一通り検査を受け、「異常はありません」「体質でしょう」と説明を受けたものの、「結局、何が原因なのだろう」と悩んで来院される飼い主さまも少なくありません。
検査は、皮膚病の背景に隠れている病気がないかを確認するために欠かせないものです。当院でも必要な検査は行います。ただ、多くの皮膚病では、検査結果だけで治療の方向性が大きく変わることは多くありません。診察でその子の体質や皮膚の状態、これまでの経過を確認し、ある程度の方向性を考えたうえで、検査結果によって見落としがないかを確認し、必要に応じて治療内容を調整していきます。
私にとって、検査結果も皮膚の赤みも脱毛も、すべて「結果」です。本当に知りたいのは、その結果を生み出している体の状態です。だから初診では、検査結果だけを見るのではなく、いつ症状が始まったのか、薬にどのように反応したのか、若い頃の被毛はどうだったのか、食事や日常生活にどのような変化があったのかまで確認しながら、その子に合った治療の方向性を考えていきます。
「検査では異常なし」は、「原因なし」ではありません
「検査では異常ありません」「原因ははっきりしません」と説明を受け、「結局、何が原因なのだろう」と感じて来院される飼い主さまは少なくありません。
細菌やマラセチア(カビの仲間)の有無、ホルモンの数値、内臓の働き。こうしたものは、検査で評価しやすい領域です。一方で、生まれ持った体質、それが表れる皮膚や被毛、食事への反応、日常の行動パターンは、数値として評価することが難しい領域です。
例えば、細菌は検査で見つかります。でも私が知りたいのは、「細菌がいた」ことではなく、「なぜ、この子では細菌が増え続けるのか」です。その答えの多くは、検査ではとらえにくい領域にあります。
| 検査でとらえやすいもの | 検査ではとらえにくいもの |
|---|---|
| 細菌やマラセチアの有無 | 生まれ持った体質(遺伝的な要素) |
| ホルモンの数値 | 体質が表れる皮膚・被毛 |
| 内臓の働き | 食事への反応 |
| 寄生虫の有無 | 日常の行動パターン |
「正常か、異常か」だけを、見ていません
検査票を見ると、どうしても「正常か、異常か」に目が行きます。基準値は大切な目安です。ただ、私が見たいのは線引きの内か外かではなく、その数値がその子の症状とつながっているのか、ということです。
基準値から少し外れていても、それだけで原因と決められるわけではありません。逆に、数値が基準値内におさまっていても、それだけで判断はできません。数値は、症状の経過や皮膚・被毛の状態と重ねて、はじめて意味を持ちます。
「皮膚が弱い」という体質は、数値にできません
「皮膚が弱い」という体質は、現在の医療では数値化することができません。そのため、検査をしても「体質ですね」「こういう子は多いですよ」「上手に付き合っていきましょう」と説明されることがあります。それは決して間違った説明ではありません。ただ、私はそこで診療を終えたくありません。「その体質は皮膚や被毛にどのように表れているのか」「体質をどのように評価し、治療につなげられるのか」「少しでも良い状態へ近づける方法はないのか」を考えることが、当院の皮膚科診療だと考えています。
- 毛が細くなった
- 毛量が減った
- 毛艶がなくなった
- 皮膚が乾きやすくなった
- 毛色が薄くなってきた
こうした変化は血液検査には表れません。しかし、その子の体質を知るための大切な診断材料になります。遺伝そのものは変えられません。しかし、皮膚や被毛の状態、食事への反応など、体質として表れている部分は整えていくことができます。当院が大切にしているのは、検査に映らないこの表れをどう読み取り、どう治療につなげるかです。
次のような場合は、検査結果と経過を合わせて確認します。
- 「異常なし」と言われたのに、かゆみや脱毛が続いている
- 数値は正常でも、被毛や皮膚の様子が以前と変わってきた
- お薬で一部は良くなったのに、同じ症状を繰り返している
- 異常値に対して投薬したのに明らかな改善がない
数値だけで判断しない例。甲状腺の検査
数値だけでは原因を決められない検査の一例に、甲状腺機能の検査があります。甲状腺ホルモンの数値が低いと、「甲状腺の病気があり、それが脱毛の原因」と考えたくなります。しかし、数値が低いことと、甲状腺機能低下症であることは同じではありません。
甲状腺に病気がなくても、低い数値が出ることがあります
甲状腺ホルモンは、ほかの病気や体調、使用している薬などの影響を受けて低くなることがあります。そのため、低い数値が一度出ただけでは、甲状腺機能低下症と確定することはできません。
数値だけを根拠に治療を始めると、実際には別にある脱毛や被毛異常の原因が、確認されないまま残ってしまうことがあります。大切なのは、数値が低いかどうかだけではなく、その子に甲状腺機能低下症を疑う症状や身体の変化があるかを合わせて見ることです。
数値と、症状や被毛の変化が一致しているかを確認します
検査結果は、症状の経過、皮膚や被毛の状態、ほかの検査結果と重ねて評価します。甲状腺機能低下症が疑われるにもかかわらず結果がはっきりしない場合には、ほかの病気や投薬の影響を確認し、必要に応じて検査項目を追加したり、時期を改めて確認したりします。
一方で、異常値に対して治療を行っても、被毛や皮膚に明らかな改善がみられない場合は、その異常値だけでは症状を説明できていない可能性があります。その場合は、甲状腺以外に見落としている原因がないかを改めて考えます。
甲状腺の検査で重要なのは、数値だけで病名を決めることではありません。その検査結果と、その子に起きている変化が一致しているかを確認することです。
検査では見えないところに、診断のヒントがあります
かゆみも脱毛も、皮膚に見えている変化です。その背景には、その子の体質や身体の状態が関係していることがあります。検査で異常が出ないまま症状が続くときは、検査では評価しにくい領域を確認します。
数値になりにくい、代表的な領域
- 体質:皮膚のバリア機能の弱さなど、生まれ持った体質は数値化できません。体質がどう表れているかは、皮膚と被毛を直接診て確かめます。
- 被毛:毛艶が悪くなった、毛が細くなった、毛の生え替わりがわかりにくくなった。こうした被毛の変化は検査結果には表れませんが、大切な診断材料です。長引く皮膚トラブルの裏に、気づかれていない被毛の異常が隠れていることもあります。
- 行動:かゆみが落ち着いても舐める行動だけが残る場合など、行動が関係していることがあります。(→心因性の行動と見分ける視点)
- 食事への反応:毎日の食事は、体質を整えるうえで大きな要素です。ただ、その影響が血液検査でくっきり出るとは限りません。(→犬の皮膚病と食事療法)
もう一つ、大切な診断材料があります。皮膚病になる前の若い頃、特に生後6か月頃までの全身写真です。確認したいのは、その子本来の毛量や毛艶、毛色です。写真は、その子の被毛が本来どうだったのかを知るための、大切な「基準」になります。現在の状態と比べることで、どこが変化しているのか、どこを治療の目標にするべきかが見えてきます。
治療中は、毎日見ていると少しずつの変化しかわかりません。しかし皮膚病になる前の若い頃の写真と比べると、現在の状態との違いが見えてきます。写真は、検査と同じくらい大切な診断材料です。
治療への反応も、大切な「検査」の一つです
見落とされがちですが、治療への反応そのものが、重要な診断材料になります。お薬でどの症状が改善し、どの症状が残ったのか。その反応から、数値に映らなかった原因の見当がついてくることがあります。
原因を知るためには、検査に加えて必要な視点
これまでの検査を読み解くことから
「原因を知りたい」と考えたとき、多くの方はまず検査を思い浮かべます。しかし、皮膚病では検査で評価しづらい体質が背景にあることが少なくありません。だから私は、これまでの検査結果を大切にしながらも、その子の数値化しづらい皮膚や被毛、食生活・行動パターンなどの経過を一つずつ確認していきます。
そのうえで足りない情報がはっきりすれば、必要な検査を絞って考えます。例えば被毛の状態は血液検査ではわかりません。必要に応じて、皮膚そのものを詳しく調べる検査が判断材料になることもあります。
受診前に整理していただきたいこと
- これまでの検査結果(日付入りのもの)
- いつ頃から症状が出始めたか、悪化した時期
- 検査を受けた時期に使っていたお薬
- 食事やおやつの内容
- 皮膚病になる前の若い頃の全身写真
こうした記録があると、検査結果を読み直す材料が増えます。
原因は、検査結果の中だけにあるとは限りません。その子の皮膚、その子の被毛、その子が歩んできた経過を一つずつ重ねながら、「なぜ、この子に皮膚病が起きたのか」を考えていきます。
検査では異常がない。それでも治らない。そんなときこそ、検査結果だけではなく、その子の皮膚や被毛、これまでの経過をもう一度見直すことが、原因に近づく第一歩になります。
検査と原因について、よくいただく質問
- 検査で「異常なし」と言われました。原因はないのでしょうか?
- 「異常なし」は、今回実施した検査で大きな異常が見つからなかったという意味で、皮膚病の原因をすべて否定できたという意味ではありません。しかし検査で評価しやすい原因と、評価しにくい原因があります。生まれ持った体質や被毛の質は数値に表れにくく、食事への反応も、一般的な検査だけでは判断しにくいところがあります。検査は「答え」ではなく「判断材料」です。「異常なし」は、次に何を見るかを考えるための情報だと捉えています。
- アレルギー検査をすれば、原因はわかりますか?
- アレルギーが原因ではないこともあれば、アレルギーと何か併発しているケースもあります。アレルギーがあっても症状がわずかで、別の病気が主たる原因というケースもあります。もちろん検査で反応が出ることと、それが今の症状の原因であることは、必ずしも同じではありません。検査は診療に役立つものですが、検査結果と症状、検査結果と治療方針を適切に結びつける判断力が重要です。
- 甲状腺の数値が低いと言われました。それが原因でしょうか?
- そうとは限りません。甲状腺ホルモンは、健康な犬でも低く出ることがあるためです。低い数値だけで病気と判断せず、その子の様子、被毛や皮膚の状態、経過やほかの検査結果を含めて、慎重に評価する必要があります。目安としては「仮に甲状腺機能低下症であれば、甲状腺ホルモン剤の補充療法で十分な改善が期待できる」となります。
- 同じ検査を、またやり直すことになりますか?
- 必ずしも再検査が必要になる項目ばかりではありませんが、定期的に見ていくべき項目もあります。例えば細菌培養感受性試験、甲状腺や副腎、健康診断でも重要視される一般血球検査や生化学検査は定期的に実施する必要性が高いと考えています。一方で、アレルギー検査や皮膚組織検査をこまめに実施することは少ないと考えています。
- 検査でわからない原因は、どうやって見つけるのですか?
- まず重要なのは犬種の遺伝的特性です。現在の年齢とあわせて、発症年齢との比較、食事の内容、被毛の変化、日常の行動パターンを確認しながら、「なぜ、その症状が起こるのか」を一つずつ整理していきます。行動は、掻く・舐めるだけではありません。緊張しやすい、環境の変化が苦手といった、その子の気質も、その子を理解するための大切な情報になります。
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参考情報(外部)
会社情報
| 会社名 | 四季の森どうぶつクリニック メディカルスキンケアセンター |
|---|---|
| 住所 | 〒470-1154 愛知県豊明市新栄町1丁目179 |
| 代表者 | 院長 平川 将人 |
| 電話番号 | 0562-85-2215 |
| 診療内容 | 犬の皮膚病治療(皮膚科)・メディカルスキンケア療法 |


























